昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十三) ほんとにおやさしい旦那さまです

2013-12-08 11:29:23 | 小説
(一)

「ほんとにおやさしい旦那さまです。
会社では怖い社長だとお聞きしましたけれど、決してそんなことはありません。

きっと一生懸命におやりにならないから、強くお叱りなんだと思います。
小夜子奥さまもそうお思いでしょう?」

嬉々として話していた千勢。
次第に目が潤み始めて、とうとう最後には涙声になってしまった。

「もうしわけありません、あたしったら。
どうしたんでしょ、悲しくなんかないのに。

違うんですよ、嬉しいんです。
又呼んでいただけるなんて、思ってもいませんでした。

旦那さまにお聞きしました。
お前のことを嫌ったんじゃないぞって。

あたしてっきり小夜子奥さまに嫌われたんだって思って。
悲しくて悲しくて。しばらくの間、実家に戻っていたんです」

小夜子の差し出すハンカチで、笑みを浮かべながら涙を拭く千勢。

「でも、遊んでばかりもいられないので、新しいお屋敷でお世話になっていたんです。
そのお屋敷でもかわいがってはもらえたのですが、やっぱり旦那さまと小夜子奥さまが忘れられずに…。

そんな時に実家から手紙が届いたんです。
旦那さまからお声がかかったけれどどうする?と」

「いつなの、それって。あたし、全然聞いてないわ」

小夜子を思っての武蔵なのだが、ひと言の相談もなかったことが腹立たしくも感じる小夜子だった。

“家事のことは、あたしに決めさせてくれなきゃ”
しかし“武蔵らしいわね。あたしのこととなると、素早いんだから”と、満更でもない。


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