(七)
「小夜子さまと同じでございました。
実家ではうまくやれていたことが、どうにもちぐはぐになってしまいます。
緊張していたのだと思います」
「そう。やっぱり千勢でも、緊張したの? 初めは。
あたしもね、くくく、包丁を持った時なんか。
武蔵がね、あたしを呼んだの。
武蔵はね、大丈夫か? って声をかけたらしいんだけど、あたしったら、血相変えて包丁を持ったまま。
くく…分かる? 武蔵にね…」
「ひょっとして、そのまま旦那さまの所にですか?」
「そうなの、行っちゃった。びっくりするわよね、そりゃ。
真っ青な顔してたんですって。心中でもするつもりかって、ね」
「旦那さま、驚かれたでしょ。でも、分かる気がします。
包丁を持って、いざ! という時に声を掛けられたのでは」
「『なに考えてるんだ、お前は!』って、怒られちゃった。千勢は、怒鳴られたことはある?」
間髪いれずに、千勢が答えた。
「とんでもございません。声を荒げられることなど、一度も。
黙ってあたしの前に差し出して、『食べてごらん』とひと言です。
辛かったり甘すぎたり、ありました。
でも、『お前の一生懸命さは知っている。次は、もう少し美味しくしてくれ』と。
『手際の悪さでお待たせしちゃだめだ、なんて考えるな。
なんでもそうだが、手間暇をかけてこそ、実がなるというものだ』とも言われました」
「そう、千勢には優しいのね」
「いえいえ、千勢は鈍くさいので」
「武蔵は、千勢が可愛くてしかたないのね」
「こんな、おか目のあたしがですか? キャハハハ、そんな」
底なしに明るい千勢が、時として荒みがちだった武蔵の心を和ませていた。
そして今は、小夜子の奔放さが武蔵には嬉しい。
「小夜子さまと同じでございました。
実家ではうまくやれていたことが、どうにもちぐはぐになってしまいます。
緊張していたのだと思います」
「そう。やっぱり千勢でも、緊張したの? 初めは。
あたしもね、くくく、包丁を持った時なんか。
武蔵がね、あたしを呼んだの。
武蔵はね、大丈夫か? って声をかけたらしいんだけど、あたしったら、血相変えて包丁を持ったまま。
くく…分かる? 武蔵にね…」
「ひょっとして、そのまま旦那さまの所にですか?」
「そうなの、行っちゃった。びっくりするわよね、そりゃ。
真っ青な顔してたんですって。心中でもするつもりかって、ね」
「旦那さま、驚かれたでしょ。でも、分かる気がします。
包丁を持って、いざ! という時に声を掛けられたのでは」
「『なに考えてるんだ、お前は!』って、怒られちゃった。千勢は、怒鳴られたことはある?」
間髪いれずに、千勢が答えた。
「とんでもございません。声を荒げられることなど、一度も。
黙ってあたしの前に差し出して、『食べてごらん』とひと言です。
辛かったり甘すぎたり、ありました。
でも、『お前の一生懸命さは知っている。次は、もう少し美味しくしてくれ』と。
『手際の悪さでお待たせしちゃだめだ、なんて考えるな。
なんでもそうだが、手間暇をかけてこそ、実がなるというものだ』とも言われました」
「そう、千勢には優しいのね」
「いえいえ、千勢は鈍くさいので」
「武蔵は、千勢が可愛くてしかたないのね」
「こんな、おか目のあたしがですか? キャハハハ、そんな」
底なしに明るい千勢が、時として荒みがちだった武蔵の心を和ませていた。
そして今は、小夜子の奔放さが武蔵には嬉しい。
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