昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十一) 小夜子が吸い込まれていく

2014-06-26 21:55:39 | 小説
(一)

「いらっしゃいませ、御手洗さま。ようこそのお越しで」
うやうやしく礼をするボーイに、ニッコリと微笑んで「ごきげんよう」と応える小夜子だ。

鮮やかなネオンサインでキャバレー:ムーランルージュとある大きな建物の中に、小夜子が吸い込まれていく。慌てて追いかける竹田に「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくり」と、深くお辞儀をする。

「あ、いえ、こちらこそ」と、慌てて竹田が返事を返した。
竹田の卑屈さを感じ取った小夜子の、苛立つ声が飛んできた。
「竹田、早くいらっしゃい!」

「申し訳ありません。何せ初めての場所なもので、何をどうしていいのか分かりません」

ペコペコと米つきバッタの竹田に、周りから失笑が洩れた。
己が詰ることは良しとしても、他人に蔑視されることには我慢がならぬとばかりに、小夜子の怒りが頂点に達した。

じろりと睨みつけると、「初めての人間がまごついて、何が可笑しいのかしら!」と強い声を発した。
座が、シンと静まり返った。

「御手洗さま、申し訳ございません。行き届きませんで、失礼致しました」
慌てて飛んできたマネージャーが、平謝りする。

「高木くん、もっと気を配らなくちゃだめだぞ」と声を潜めて、ボーイに注意を与えた。



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