(六)
「あたしの前では、ずっとそんな竹田でいなさい。会社で見る、むっつりはだめよ」
「はい。業務命令として、しっかりと承りました」
「よろしい。社長婦人としての、初の業務命令です」
荷物を置いて最敬礼する竹田に対し、小夜子もまた敬礼で返した。
そこに、どっと改札から出てきた人波に飲み込まれた二人。
咄嗟に竹田が、小夜子を抱きかかえてかばった。
「大丈夫ですか? 気が付かずに、申し訳ありませんでした。
出口のそばに車を止めてあります」
人ごみにもまれながら、何とか車にたどり着いた。
「小夜子奥さま。出掛けに、皆に言われたんです。
是非にも会社にお出で願えって。
このままご自宅に向かわれたら、ぼく、袋叩きにあいそうです。
会社に立ち寄って頂くわけにはいきませんか」
「ええ! そんなの、恥ずかしいわ。武蔵、居ないんでしょ? いやあよ、あたし」
突然の友だち口調、いつもの見下し口調が消えた小夜子。
竹田もびっくりだが、当の小夜子も顔を赤くした。
“どうしたのかしら、あたし。
どうしてこんなにドキドキするの?
こんなこと、正三さんにもなかったことだわ”
「お疲れでしょうけれども、どうか助けると思。
小夜子奥さま、どうされました? 少し顔が赤いようですけど」
「あたしの前では、ずっとそんな竹田でいなさい。会社で見る、むっつりはだめよ」
「はい。業務命令として、しっかりと承りました」
「よろしい。社長婦人としての、初の業務命令です」
荷物を置いて最敬礼する竹田に対し、小夜子もまた敬礼で返した。
そこに、どっと改札から出てきた人波に飲み込まれた二人。
咄嗟に竹田が、小夜子を抱きかかえてかばった。
「大丈夫ですか? 気が付かずに、申し訳ありませんでした。
出口のそばに車を止めてあります」
人ごみにもまれながら、何とか車にたどり着いた。
「小夜子奥さま。出掛けに、皆に言われたんです。
是非にも会社にお出で願えって。
このままご自宅に向かわれたら、ぼく、袋叩きにあいそうです。
会社に立ち寄って頂くわけにはいきませんか」
「ええ! そんなの、恥ずかしいわ。武蔵、居ないんでしょ? いやあよ、あたし」
突然の友だち口調、いつもの見下し口調が消えた小夜子。
竹田もびっくりだが、当の小夜子も顔を赤くした。
“どうしたのかしら、あたし。
どうしてこんなにドキドキするの?
こんなこと、正三さんにもなかったことだわ”
「お疲れでしょうけれども、どうか助けると思。
小夜子奥さま、どうされました? 少し顔が赤いようですけど」
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