21日(月)。昨日、池袋の東京芸術劇場で東京都交響楽団の「東京芸術劇場リニューアル記念 インバル=都響 新マーラー・ツィクルスV」を聴きました プログラムは①モーツアルト「フルート協奏曲第2番ニ長調K.314」、②マーラー「交響曲第5番嬰ハ短調」です。指揮はもちろんエリアフ・インバル、①の独奏は上野由恵です
前回1月15日にこの会場で読売日響のコンサートを聴いた時は、パイプオルガンは反響版で隠されていて姿が見えなかったのですが、昨日は”バロック面”の堂々たる偉容と再会することができました オルガンはホールと一体の楽器なので、音の調整は改修後のホールに合わせてでないと出来ないことが多いとのことで、昨年9月1日の劇場リニューアル・オープン後も演奏の合間を縫って整音・調律作業が行われているそうです 3月31日にはお披露目記念コンサートが開かれるとのことで、現在前売り券が発売されています(S席2,000円、A席1,500円)。
今回の公演はチケットを買ったのが遅かったため、自席は2階N列38番と、右サイドのやや後方の席。インバルの人気を反映してか会場は満席です オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、その後ろにコントラバスといった”高から低へ”の流れ。ドイツ系の伝統的な、ヴァイオリン・セクションが左右に分かれる”対向配置”から、弦楽器がピアノの鍵盤と逆に左から右へいくにしたがって低い音になるように配置を初めて変えたのは、ディズニーの”ファンタジア”でも有名なレオポルド・ストコフスキーだと言われています その理由は当時のLPレコードのステレオ化が関係しており、高音は左のスピーカーから、低音は右のスピーカーから、明確に分かれて再生されるよう求められたからだと言われています
さて、この日の都響はコンマスが矢部哲哉で、第1曲がモーツアルトのため小編成です ソリストの上野由恵が空色の鮮やかなドレスを身にまとい、インバルとともに登場します 彼女は東京藝大を首席で卒業後、数々のコンクールで入賞歴を持つ実力者です。1曲目のモーツアルト「フルート協奏曲第2番ニ長調K.314」は自作曲の編曲版です。アマチュアのフルート愛好家から複数のフルート曲を依頼されたモーツアルトは、締め切りまでに時間がなかったのか、えいやっ!とばかりに過去に書いた自作のオーボエ協奏曲をフルート協奏曲に改作してしまったのです 実は、このフルート協奏曲第2番こそ、私がクラシック音楽を聴きはじめるきっかけになった大事な曲なのです
インバルのタクトのもと軽快にオーケストラがメロディーを奏でる中、上野のフルートが華麗に、軽やかに空中に漂います モーツアルトは何と明るく、軽やかなのでしょう 第3楽章アレグロのカデンツァは初めて聴いたように思いますが、誰の作曲でしょうか
マーラーの交響曲第5番を演奏するため、オケのメンバーが拡大します。インバルの合図で、第1楽章冒頭、トランペットの独奏で”葬送行進曲”が奏でられます この演奏の成功を確信させる素晴らしい出だしです 楽章の最後がピチカートで締めくくられると、インバルは間を置かず、すぐに第2楽章に突入します。まさに表題通り”嵐のように、大いなる激しさ”の音楽です
第3楽章「スケルツォ」はまるでホルン協奏曲です。冒頭からホルンが独奏楽器として活躍します ホルンはインバルの期待に応え素晴らしい演奏を展開しました この楽章が終わったところでインバルは一旦舞台袖に引き上げ、その間オケはチューニングします。通常は、指揮者は指揮台で立ったまま休憩しますが、インバルは舞台袖で椅子に座って水分補給でもしたのかもしれません。何しろマーラーは長丁場ですから
いよいよ第4楽章「アダージェット」に入ります。ハープと弦楽合奏だけによるこの美しい曲は、ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」であまりにも有名になりました どのオーケストラで聴いても素晴らしいと思うのですが、とりわけ都響の弦楽セクションは一段と美しい響きを聴かせてくれます
インバルはアダージェットが終わるとすぐに第5楽章冒頭のホルンに入るよう指示、楽章が連続しますつまり、インバルは第1楽章と第2楽章を繋ぎ、第3楽章は独立させて演奏、第4楽章と第5楽章を繋ぎ、大きく3部に分けて演奏したことになります。これはマーラーの指示によるもので、インバルは作曲者の指示を忠実に守ったと言えます 20年程前にインバル=都響でこの曲を聴いた覚えがありますが、その時にも多分、同じ演奏スタイルを取ったのだと思います
第5楽章のロンド・フィナーレの目の覚めるような鮮やかさを何と表現すればいいのでしょうか インバルは大胆にして細心です。フィナーレの管楽器の咆哮と弦・打楽器の熱演によって100年前のマーラーの大曲が21世紀の日本に蘇った、という感激です
終演後は各階からブラボーがかかり、会場が割れんばかりの拍手で満たされました インバルはオケをパートごとに立たせ、自らも拍手を送りました。オケが解散してからも拍手が止まず、私が会場を出てから、インバルは舞台に呼び戻されたようです。会場内から一段と大きな拍手が聴こえましたから。こいいうカリスマ性を持った指揮者が本当に少なくなりました