24日(木)。朝日の朝刊に「CM天気図」という連載コラムがあります これは雑誌「広告批評」の主宰者だった天野祐吉さん(現コラムニスト)が書いていて、毎回楽しみにしているのですが、昨日のテーマは「文化貧乏はヤだね」というものです
要約すると、
「若い友人から”パチンコって文化ですか?”と聞かれた。もちろん、パチンコだって文化だ 人間が作り出したものは、ピンからキリまで含めて、みんな文化だ。その文化は、ヒマから生まれる。ヒマのないところからは文化は生まれないし、育つこともない
ついでに言えば、文化人というのはヒマ人のことだ。そのヒマを積極的につぶすことを遊びという。”遊びの文化を創造する”主体は企業じゃない、ぼくら一人ひとりなんじゃないだろうか。経済大国もいいけれど、遊びごころのない国は、おカネはあっても貧しいよね
」
そうだ、その通りだ 人間が作り出すものはみんな文化だ。中でも、音楽や美術といった芸術は文化の最たるものだろう
それはヒマがなければ生まれないし、育つこともない。映画やコンサートばかり観たり聴いたりしている私などは”積極的にヒマをつぶして遊んでいる”文化人そのものかもしれません。”お前が文化人なら日本人は全員文化人だ
”と言われたら、カルチャー・ショックで寝込みそうですが、さしあたってNHKの特別会員くらいにはなれるのでは
もちろん、NHKって「日本ヒマ人協会」の略ですけど、それが何か?
閑話休題
昨夕、初台の新国立劇場でワーグナーの「タンホイザー」を観ました 2013年はワーグナー生誕200周年ですが、その幕開けの公演といってもよいものです。中世のタンホイザー伝説とヴァルトブルク伝説に題材を取り、官能的な愛と精神的な愛の間で葛藤する騎士タンホイザーが、乙女エリーザベトの自己犠牲によって救済される物語です
キャストは領主ヘルマンにクリスチャン・ジグムンドソン、タンホイザーにスティー・アナセン、ヴォルフラムにヨッヘン・クプファー、ヴァルターに望月哲也、エリーザベトにミーガン・ミラー、ヴェーヌスにエレナ・ツィトコーワほか。コンスタンティン・トリンクス指揮東京交響楽団、演出はハンス=ペーター・レーマンです
新国立劇場に着いてクロークにコートを預け、階段を上がって行く途中、工事中らしき壁に何やら張り紙がありました ちらっと見ると、エスカレーターを設置するため工事中で、完成は2月末とのことでした。オペラを観にくる人はお年寄りが多いので、そういう要望があったのかも知れません。とにかく良いことはどんどんエスカレートさせてやって欲しいと思います
ただし、チケット代を値上げしないでね
自席に座ろうとすると、隣席の人と通路で立っている人とが話をしていたので、開演ぎりぎりまで待ってもいいか、と思って会場最後列通路で待っていると、何と東京シティフィルの元常任指揮者・飯守泰次郎さんがそこに加わって話し込んでしまいました まいったな、と思いましたが開演のアナウンスに救われ、無事に座ることができました
開演に際して、いつものように「この建物は震度7にも耐えられる構造になっています。地震の際はそのまま席にお着きのうえ係員の指示をお待ちください」というアナウンスがありました 3.11大震災以降、どこのコンサートホールでもお馴染みの風景になっています
指揮者トリンクスのタクトでタンホイザー序曲が始まります とうとうと流れるその音楽を背景に、舞台上にガラスの竹のような筒が何本もせり上がってきます。プログラムによるとハンス=ペーター・レーマンによるこの演出は2007年の再演とのこと。2007年にはすでに定期会員になっていたので、このオペラを同じ演出で観ているはずですが、まったく見覚えがありません
仕事の都合で行けなくなって誰かにチケットを譲ったのかも知れません
長い序曲の途中からバッカナールの音楽となり男女のバレエが踊られますが、新国立劇場バレエ団によるこのバレエが素晴らしいのです 第1幕で最初に登場するのはタンホイザー役のスティー・アナセンとヴェーヌス役のエレナ・ツィトコーワですが、この二人は対照的でした。アナセンは寝ているような態勢で歌っているせいか、やっと声を振り絞って出しているような苦しげな歌い方でした
それに対してツィトコーワは愛の女神ヴェーヌスを魅力的に表情豊かに歌っていました
アナセンについて言えば、本人のせいではないのですが、ダボダボのパジャマの上からガウンを着ているような衣装が何とも不似合いで違和感がありました
もっとスマートな歌手だったら似合ったかもしれません
他の出演者の衣装が素晴らしかった中で主人公一人だけが浮いていました
第2幕は何と言ってもエリーザベト役のミーガン・ミラーの美声とヴォルフラム役のヨッヘン・クプファーの歌合戦での堂々たる歌声です それと忘れてはならないのが、新国立劇場合唱団の力強く頼もしい合唱です
第3幕は再びツィトコーワが出てきて主人公のタンホイザーを愛と歓楽の世界に誘惑する歌を魅力的に歌っていました 彼女はロシア生まれのメゾソプラノですが、新国立劇場では「フィガロの結婚」のケルビーノ、「バラの騎士」のオクタヴィアン、「ラインの黄金」のフリッカなどで出演しています。小柄ながら声量もあり美しい声で人気があります
そういえば大きなテレビ・カメラが2台、会場後方にスタンバイしていましたが、NHKかどこかで放送するのかもしれません