14日(金)その2.よい子はその1も見てね。モコタロはそちらに出演しています
バレンタインデーです。娘からチョコレートをもらいました 普段から夕食作り・洗濯とアイロンがけ・掃除をはじめ、モコタロの世話に至るまで 家事全般を担っている私に対する感謝の気持ちからだろう、と 勝手に解釈して 有難くいただきました
昨夕、サントリーホールで読売日響第629回名曲コンサートを聴きました プログラムは①グリーグ「2つの悲しき旋律 作品34」、②シューマン「ピアノ協奏曲 イ短調 作品54」、ドヴォルザーク「交響曲 第7番 ニ短調 作品70」です 演奏は②のピアノ独奏=イーヴォ・ポゴレリッチ、指揮ー山田和樹です
開場時間の18時半にホールに入り、自席にコートとチラシの束を置きに行ったら、ステージからピアノの音が聴こえてきました よく見ると、舞台左サイドに置かれたピアノで、深緑色の帽子と衣装に赤いマフラーの一人の人物がシューマンの「ピアノ協奏曲」の第1楽章をおさらいしていました 間違いなく2曲目のソリスト、イーヴォ・ポゴレリッチです 結局彼は開演時間(19時)の3分前までずーっと弾いていました。こんなピアニストは初めてです その演奏姿から、同じ鬼才のグレン・グールドを思い浮かべましたが、音楽に対する姿勢は全く逆です グレン・グールドは公開のコンサートで演奏することを拒否していましたが、ポゴレリッチは本番でもないのに聴衆の前に姿を晒して”一人リハーサル”をやってのけたのです 会場案内係の女性が「場内は撮影禁止です」と盛んに叫んでいたのはポゴレリッチ対策だったのか、と納得しました
さて本番です。1曲目は弦楽合奏の作品のため管・打楽器は入りません オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつもの読響の編成。コンマスは長原幸太です
演奏するのはグリーグ「2つの悲しき旋律 作品34」です この曲はエドアルド・グリーグ(1843-1907)が1880年に作曲した歌曲「12の歌」第1集から第3曲「傷ついた心」と第2曲「春」を弦楽合奏用に編曲したものです
山田和樹が登場し、演奏に入ります。第1曲は北欧の静謐な冷たい空気を感じる悲しみに満ちた曲想でした 第2曲は、いくぶん希望が垣間見られるような明るさを感じます 両曲とも弱音が美しく響く作品でした
2曲目はシューマン「ピアノ協奏曲 イ短調 作品54」です この曲はロベルト・シューマン(1810-1856)が1841年に第1楽章を、1845年に第2、3楽章を作曲、1846年1月1日にライプツィヒ、ゲヴァントハウスでクララ・シューマンの独奏により初演されました 第1楽章「アレグロ・アフェットゥーソ」、第2楽章「インテルメッツォ:アンダンティーノ・グラツィオーソ」、第3楽章「アレグロ・ヴィヴァーチェ」の3楽章から成ります
白髪・長身のポゴレリッチが登場しピアノに向かいます 彼の演奏を初めて聴いたのは2010年5月の「ラ・フォル・ジュルネ音楽祭」でショパンの「ピアノ協奏曲第2番」を弾いた時でした その後、2012年5月にショパンの「ピアノ協奏曲第1番と第2番」を聴いています。彼の姿を見るのはその時以来ですが、彼はこんなに背が高かったかな?と意外に思いました 彼はいつも通り譜面を見ながら演奏するようです。譜めくりもいます。椅子の位置や高さを念入りに調整して指揮者にOKを出します
山田和樹の指揮で第1楽章に入ります 予想通り、ポゴレリッチはテンポを自由自在に動かします とくにピアノのソロの場面では極端なスローテンポに落とし、一音一音を明確に弾き分けます そして、オケとの協奏部分になると山田の指揮に応じ テンポアップして”本来の”テンポで演奏します ポゴレリッチにとって、この曲の主役はあくまでも自分であって、オケは自分に合わせなければならない存在です 山田✕読響から見れば、これほどやりにくいソリストはいないでしょう 第2楽章は、ポゴレリッチのことだから超スローテンポで始めるのだろうと思っていると、極めて速いテンポで開始し、驚かされます ポゴレリッチは人の予想を裏切るのを楽しんでいるかのようです 途切れることなく第3楽章に入り、やっと”普通の”テンポになったな、と思っていると、とんでもない やはり演奏スタイルは変わらずテンポを自在に揺らします。ミスタッチも平気のようです
演奏後は満場の拍手が会場を満たしブラボーが飛び交いましたが、正直に告白すると、「いま聴いたのはシューマンだったのだろうか」と疑問が残りました 私にはまったく別の曲に聴こえました。音楽の流れがソリストの演奏によって断ち切られてしまう、という印象です ポゴレリッチの演奏はいわゆる”オーソドックスな”演奏から見れば、極めてエクセントリック、別の言葉で言えば「やりたい放題」の演奏です 現代の何の特徴もない無個性の演奏と比べれば、超個性とも言うべき彼の演奏ほど面白い演奏はないでしょう しかし、肝心のシューマンがなくてポゴレリッチが残る演奏というのはどうなんでしょうか 今回の演奏は明らかにソリストとオーケストラとの「協奏曲」ではなく「競争曲」でした 2010年と2012年のショパン「ピアノ協奏曲第2番」の時も同じアプローチによる自在なテンポによる演奏でしたが、あの時は説得力があり、聴いていて感動を覚えました しかし、今回はそれが感じられませんでした あるいは私自身が保守的になったのだろうか?とも思いましたが、そもそも現代(=同時代)の音楽を聴かないで100年も200年も前の音楽を好んで聴いていること自体が保守的ではないのか、と思ったりします 今回の演奏では、むしろ、バックを務めた山田和樹指揮読響の健闘が光りました よくあの自由自在の演奏をフォローしていたと思います しかし、ポゴレリッチからあの個性を取り除いたらポゴレリッチではなくなります 彼はあのスタイルを続けるしかないのかも知れません
プログラム後半はドヴォルザーク「交響曲 第7番 ニ短調 作品70」です この曲はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)が、名誉会員となったロンドン・フィルハーモニー協会からの委嘱により1884年から翌85年にかけて作曲、1885年4月22日にロンドンで初演されました 第1楽章「アレグロ・マエストーソ」、第2楽章「ポコ・アダージョ」、第3楽章「スケルツォ、ヴィヴァーチェ」、第4楽章「フィナーレ:アレグロ」の4楽章から成ります
この第7番は第8番や第9番「新世界より」と比べると地味で聴く機会も圧倒的に少ない曲ですが、予習のためにジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のCDで繰り返し聴いていたら、何とも素晴らしい曲であることに気が付きました 今回生演奏で聴いて、その感を強くしました ドヴォルザーク特有のボヘミア情緒が豊かで、民俗色溢れる音楽が展開します 第2楽章では倉田優のフルート、金子亜未のオーボエが冴えていました この曲の白眉は第3楽章のスケルツォだと思います ボヘミアの舞曲がリズム感良く演奏され、指揮者は指揮台で踊っていました オケ総動員によるフィナーレは圧巻でした
アンコールがありました 最初に長原幸太、瀧村依里、富岡廉太郎、鈴木康浩の弦楽四重奏により美しいメロディーが演奏され、次いで弦楽合奏が追いました アザラシヴィリの「無言歌」(弦楽合奏版)という曲でした グリーグのようでもあり、ドヴォルザークのようでもある しみじみ良い曲でした