鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

黒木売翁図小柄 一宮長常

2010-04-03 | 小柄
黒木売翁図小柄 一宮長常

  
黒木売翁図小柄 銘 一宮長常(花押)

 黒木を京都の町で売り歩く翁を題に得た、京都金工一宮長常(ながつね)の小柄。焚き付けに用いる煤けた黒木は、江戸時代においては必需品。薪とは異なり、細枝を火が付きやすいよう乾燥させたもので、軽いことから女の商いとされていたものであろう、黒木売りの大原女が良く知られているが、女だけの仕事ではなかったようだ。
 この小柄は、一宮長常展の開催に関連して紹介したことがある。翁は遠く陰ってきた空を見上げ、まだ売り尽くしていない黒木を気にかける。裏面に描かれているのは三日月と、その背後に迫る夕闇か、あるいは雨の到来を表現しているのであろうか、鑢の斜線を図に採り入れている。小柄の裏面を巧みに利用した表現である。夕暮れ時であっても、雨が迫っている場合でも、黒木売りにとっては辛いこと。早く売ってしまわねば…。
 朧銀地に毛彫と片切彫、肉合彫風の薄肉彫、平象嵌を駆使して高彫ではないにも関わらず、極めて立体感と奥行きのある画面を創出している。桜は繊細な毛彫で、黒木に挿し飾られている様子を描いている。微妙な表現ながら洒落ている。