野鯉図鐔 甚吾
野鯉図鐔 無銘甚吾
頗る迫力のある作。沼の主であるかのようにゆったりと姿を現わし、水面を揺らす鯉。澄んだ水を通して眺める沼の底のように鍛えた鉄地に鎚目を施し、その変化のある肌合いにさらに縦に毛彫を切り込んで流れ落ちる瀧を表現している。甚吾は初二代ともに野鯉図を好んで題に得ている。裏面は、この鐔では密教具の一つである三鈷を描いているが、梅花を散らした図もあり、ここに甚吾の美意識が覗いとれよう。図はいずれも主題の周囲をわずかに鋤き込んで主題を薄肉彫にし、毛彫を加え金銀の布目象嵌を要所に施しただけの手法。後に金工が採った立体感のある高彫や多彩な色絵象嵌などの手法がないにもかかわらず、生気に満ちて力強く、鐔面は単なる絵画ではなくなり、鐔の鉄地そのものからも気が満ち溢れているよう感じられる。金の目は鮮やかに光り、銀の尾は陽の光を反射しているように独特の光彩を放っている。裏面の三鈷は不動明王を意味している。甚吾の龍の図にも三鈷図がみられることから、現在では梅と不動明王あるいは龍との関連が不明になっているものの、何らかの伝承や言い伝えなどがあったのではないだろうかと推測している。鯉が龍門の瀧を昇って龍に変化するとは古代中国の伝説。龍図と鯉図は同じ意識で製作されたものと思われる。
野鯉図鐔 無銘甚吾
頗る迫力のある作。沼の主であるかのようにゆったりと姿を現わし、水面を揺らす鯉。澄んだ水を通して眺める沼の底のように鍛えた鉄地に鎚目を施し、その変化のある肌合いにさらに縦に毛彫を切り込んで流れ落ちる瀧を表現している。甚吾は初二代ともに野鯉図を好んで題に得ている。裏面は、この鐔では密教具の一つである三鈷を描いているが、梅花を散らした図もあり、ここに甚吾の美意識が覗いとれよう。図はいずれも主題の周囲をわずかに鋤き込んで主題を薄肉彫にし、毛彫を加え金銀の布目象嵌を要所に施しただけの手法。後に金工が採った立体感のある高彫や多彩な色絵象嵌などの手法がないにもかかわらず、生気に満ちて力強く、鐔面は単なる絵画ではなくなり、鐔の鉄地そのものからも気が満ち溢れているよう感じられる。金の目は鮮やかに光り、銀の尾は陽の光を反射しているように独特の光彩を放っている。裏面の三鈷は不動明王を意味している。甚吾の龍の図にも三鈷図がみられることから、現在では梅と不動明王あるいは龍との関連が不明になっているものの、何らかの伝承や言い伝えなどがあったのではないだろうかと推測している。鯉が龍門の瀧を昇って龍に変化するとは古代中国の伝説。龍図と鯉図は同じ意識で製作されたものと思われる。