鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桜川透図鐔 林

2010-04-17 | 
桜川透図鐔 林

 
① 桜川透図鐔 無銘林

 
② 桜川透図鐔 無銘林

 これも謡曲に採られた伝説による図。網に桜でなぜ桜川と呼ばれるのであろうか。
 買われたわが子を探して常陸国へと旅立った母。だが子を思う心は重く苦しく、ついに物狂いと化してしまった。幾年月が経て常陸国桜川のほとりに到達した母親は、わが子桜子の名を叫びながら、川に流れる桜の花びらを掬っている。この場面を文様化したのが網桜、即ち桜川図である。桜子はこのとき近隣の磯部寺の僧のもとにおり、めでたく再会を果たしたという。
 鐔は林派の作。色合い黒々とした鉄地を透かし去って網を陽に、桜を陰陽に表現している。この文様も着物や器物の装飾として採られることが多い。

 過去にも雪の降りかかる桜の様子を眺めたこともあるのだが、今朝は散り急ぐ桜に雪となってしまった。この風景はちょっと哀しい。
 桜が行く後ろを八重の桜が追いかけている。桜はさらにひと月ほどかけて北に歩んでゆくのだが、筆者にとっては来年までお別れか。あるいは山歩きして、ちょっと遅れている桜でも楽しんでこようか。というわけで、鐔の景色を楽しむのは、このまま肥後金工へ。