鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蜆に桜図小柄 壽景

2010-04-10 | 小柄
蜆に桜図小柄 壽景



蜆に桜図小柄 銘 壽景安政乙卯中秋鐫之

 手折られた桜が流れている。その水中にひっそりと息づく蜆。東龍斎派の名工壽景(としかげ)の手になる、春の暖かい空気が感じられる美しい作品。肩の力を抜いて水辺に佇み、光を受けて輝く小川をただ眺めている…そんな時間が楽しい。
 色合い黒い朧銀地に蜆は高彫赤銅色絵。水の流れは片切彫、水底は金の真砂象嵌。裏板は明るい朧銀地で、金銀の平象嵌に片切彫。

花喰鳥図目貫 菊岡

2010-04-10 | 目貫
花喰鳥図目貫 菊岡


花喰鳥図目貫 無銘菊岡

金無垢地を容彫とした美しい目貫。花喰鳥(はなくいどり)とは、遠く古代ペルシャ辺りを起源とし、シルクロードを経て我が国に至った文様の一つと考えられており、我が国では異国風とせず、鶴に松をくわえさせた図を間々見ることがある。この目貫では、雌雄の瑞鳥に花は桜。長い尾羽根を風に揺らしながら飛翔する様子は古代の鳳凰など霊鳥文様を手本にしたもので、シルクロードの香りが充満している。洒落た図柄で、横谷家門流の柳川家に学んだ光行を初代とする菊岡家の作と極められる。江戸時代後期。

桜に雉子図笄 石黒光明

2010-04-10 | その他
桜に雉子図笄 石黒光明



桜に雉子図笄 銘 石黒光明(花押)

 花鳥図を得意とした石黒派初代政常の高弟政明の門人光明(みつあき)の、この一派らしい画題を巧みに高彫色絵表現した笄。石黒派の特徴は、綺麗に揃った赤銅魚子地を背景に、精巧緻密な鏨使いによる高彫表現で、これに金銀の色絵を多用して華麗でしかも繊細な画面を創出しているところにある。
 雉子と桜の取り合わせは古歌にあり、ここでも藤原定家の自選全歌集『拾遺愚草』の『詠花鳥和歌各十二首』に題を得た、堀江興成作花鳥十二ヶ月図揃小柄を紹介している。光明の小柄では雛鳥を添え描いており、定家の歌の意味とは風合いを異にする趣向。
 装剣小道具において桜を描く場合、花の咲き始め頃、あるいは満開のそれを取材しており、はらはらと散る様子は花筏文以外には多くは見られない。死に通ずる散ることへの忌避があってのことであろうか。ところがこの笄では花の散り掛かる様子が美しく表現されている。現実の桜樹の前に佇んでみても、舞い落ちる花びらには、潔く死を選ぶという意味合いとは別の美しさが感じられよう。江戸時代後期から明治時代初期の作品。