鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

枝垂桜図鐔 正充

2010-04-12 | 
枝垂桜図鐔 正充

 
枝垂桜図鐔 銘 山陰鳥取城下正充(花押)

 春霞を意図したものであろうか鉄地に鍛え肌を鮮明に浮かび上がらせ、これを背景に枝垂れ桜を描いた鐔。鍛え肌が気流のように感じられ、これになびくように桜の枝花が流れている。美しい構成である。鍛え肌を現わすには、鍛え合わせた鉄地を熱した後に酸に浸け込むことによって表面を腐食させる。これにより鉄質の微妙に異なる肌合いが露呈するのである。正充(まさみつ)は鳥取藩のお抱え金工。

桜花文図鐔 政富

2010-04-12 | 
桜花文図鐔 政富

 
桜花文図鐔 銘 長州萩住政富作

 長州鐔工の特徴の一つに、正確な構成と精密な彫刻によって写実表現された植物図がある。武州伊藤派の表現を手本としたもので、伊藤派とは交流があり、長州鐔工が江戸であるいは逆に伊藤派の工が長門国で製作した例もある。岡田政富(まさとみ)は文化頃を活躍期とする長州藩のお抱え鐔工。
 長州鐔工には、植物が現実に生えているような写実的作風の他、この鐔のような文様表現もある。この鐔では耳際に唐草文を廻らし、切羽台辺りに桜花を押し合うように高彫で配している。唐草文は繊細、花は妖艶な趣。

桜楓図揃金具

2010-04-12 | 小柄
桜楓図揃金具


桜楓図揃金具 無銘

 秋に咲く桜もあるようで、筆者が度々散策する鎌倉の報国寺には、かつて春と秋に二度咲く十月桜があったのだが、最近はどうしたものだろうか。桜と楓の取り合わせの背景には、このような秋に花開く桜を美観として捉える意識があってのものであろうとは思われない。異質であるはずの春秋の巡り合いにこそ美が生まれる。類似の文様に、楓に川の流れを添えて『竜田川』、桜に川を組み合わせて『吉野川』と呼び慣わしている。この揃金具では、川の流れは描かれていない。赤銅磨地を高彫とし、背後に金の真砂象嵌を散し、金銀素銅の色絵を加えている。この作は縁頭鐺などの揃い物で、拵として伝えられた。その内の二点。江戸時代後期。