鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

左右大透図鐔 平田

2010-04-20 | 
左右大透図鐔 平田

 
左右大透図鐔 無銘平田

 簡素な仕立てながら印象の強い鐔。平滑に仕立てた素銅地の表面に鎚の痕跡を残して他に一切の文様を施さず、この鐔の魅力を最大に表わしている。これまでに甲冑師鐔や刀匠鐔を紹介したことがあるが、それと似て、表面にあるのは鎚の痕跡のみ。表面に触れた際に伝わり来る質感こそが鑑賞の要素だが、左右に大きく施された櫃穴も、実は意匠の一つである。一般に櫃穴は、小柄櫃が半円形、笄櫃が州浜形とされるが、肥後鐔の場合には大きく仕立て、形も多様で、本作以外にも、わずかに外張りの海鼠透(なまこすかし)、魚篭(びく)のような餌畚形(えふごなり)、茶器を想わせる形、笠形、擬宝珠形(ぎぼうしなり)、扇形などがある。この鐔では、特に形には特徴を持たせず竪丸形にしているが、大きいが故に存在感がある。これも円相につながるのであろうか。

波文一円図鐔 平田

2010-04-20 | 
波文一円図鐔 平田

 
波文一円図鐔 無銘平田

 波の文様を円相に加えて新たな意味を浮かび上がらせた鐔。真鍮地を鋤き下げ、鋤き込んだ部分には独特の錆色を残して波文を鮮明にし、彫り深い同心円を切り込んでいる。大海を描き添えているということは、まさに一円は大地、鐔の外に広がるのは自らを取り巻く大宇宙。波立つ海辺にて自らの存在を確認しているかのようである。このように深い意味を求めてしまうのは鑑賞者として過ぎるであろうか。
 真鍮地の色合いは、時と共に変化してゆく。製作時の色合いは、数年後、数十年後、数百年後にどのように変化しているのか不明である。もちろん鉄地や銀地、朧銀地も同様だが、殊に真鍮が示す質感は時の積み重なりが増えるほどに多様化してゆくもので面白い、と作者も感じたのであろうか。使用されることによって変質してゆく茶器への鑑賞眼と同様に真鍮地の作品を捉えるべきであろう。筆者は、素材の選定にも茶に通じるものがあると考える。