鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

霞桜透図鐔 林

2010-04-13 | 
霞桜透図鐔 林

 
① 霞桜透図鐔 銘 林(又平)


② 霞桜透図鐔 無銘神吉

 
③ 霞桜透図鐔 無銘肥後

 舞い散る花びら、その花吹雪の中に立って桜樹を仰ぎ見るような印象のある鐔。鑑賞者に覆い被さるかのように、鐔全面を使って多重に桜花を意匠している。三作品を紹介するが、いずれも同じ趣で、違いは金の象嵌の有無あるいはその配分の程度。肥後金工の特性が良く示されている。
 肥後金工の作風の背景には、利休に茶を学んだ細川三斎の美意識がある。また、細川家の家紋の一つが桜花紋であるため、桜花図は肥後金工に比較的多い。鉄地や真鍮地など渋い味わいのある地金を下地に用い、その表面に自然に生じた錆の色を作品に活かしているところに特徴がある。
 細川家は三河国細川荘を本拠とした古い家柄で、南北朝時代以降に隆盛した大名家。代々管領として将軍の補佐をし、阿波、讃岐、伊予、淡路、摂津、丹波、和泉、備中、備後などの守護を務めている。戦国時代には勢力も低下したが、和泉細川家の藤孝とその子の忠興が織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕えて御家を再興させた。この細川忠興の号が三斎。三斎は利休に学んだ茶のみならず、有職故実、和歌、朱子学なども修めた教養の高い学者であり芸術家であった。
 さて、この鐔の造り込みを菊花丸形としているのは重なり合う桜花を捉えたもの。猪目(ハート形)を組み合わせて桜花を天地左右非対称に配し、花房の中央には花蕊とも八重の桜とも見える小さな五葉の花弁を構成し、桜花の周囲には毛彫あるいは金の線象嵌で線刻を施している。四方に小さな猪目を透かしているのは散りかかる花であろうか。金線象嵌を加えた作では、さらに葛菱と呼ばれる文様を散し配して霞のかかる様子あるいは桜の香りが漂う様を心象的に表現している。さらにこれを繋ぐように幅の狭い筋状の透かしを切り施しており、この線によって円周方向に動きが感じられる。
 Photo①は江戸中期の林(又平)の在銘、Photo②は江戸後期の神吉と極められた作、Photo③も江戸後期も肥後極め。