鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

轆轤鑢図鐔 無銘平田

2010-04-19 | 
轆轤鑢図鐔 無銘平田

 
① 轆轤鑢図鐔 無銘平田

 
② 轆轤鑢図鐔 無銘平田

 円のみを描いた図がある。禅に通じ一円の相と言う。これも判じ物のようだが、確かに仏教を学ぶ場には、問いかけに対して的確な答えを返さねばならない問答があり、禅には公案があり、その一つである。
 答えは森羅万象、宇宙の本質を意味している。古代中国の禅僧南陽慧忠(なんようえちゅう)国師の唱道になるという。
 ①の鐔は、鐔の円形をそのまま画題に採り、簡素な仕立てで、表現というよりも地相そのものの魅力を示している。金工の世界では、同心円の図を平田彦三が得意としており、肥後金工には茶器の印象を投影したものが間々みられることから、器を製作する際に用いる轆轤(ろくろ)、その回転によって生ずる文様に擬えたものであろうか、あるいは正確な同心円は轆轤を用いて施したものであろうか、これを轆轤鑢(ろくろやすり)と呼んでいる。この鐔にも禅の意味が隠されているのであろうか。鉄地に鎚の痕跡を残して同心円を彫り描き、下には腕抜緒の小透を施している。耳には彦三に間々みられる覆輪を廻らしている。
 ②の鐔が轆轤鑢と呼ぶべき仕上げ。耳際を薄く平地辺りのあつく、切羽台辺りもやや薄く仕立て、左右に大きな餌畚形の櫃穴をあけ、地面にはごく浅い筋状の鑢目を施している。表面には微細な凹凸があり、軟らか味のある金属とは思えない質感が指先に伝わりくる。