鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

阿弥陀鑢図鐔 平田彦三

2010-04-18 | 
阿弥陀鑢図鐔 平田彦三

 
阿弥陀鑢図鐔 無銘平田彦三

 平田彦三の在銘作としては、「ひこ 彦三」と刻された鉄地の簡素な鐔が一点のみ確認されている(ひこが肥後の意味であれば肥後に移ってからの作品)。彦三の作品は真鍮地、山銅地、素銅地などが多く、鉄地は比較的少ない。表面には鍛え目を残して簡素な鑢目や抑揚変化のある地面を活かした簡潔な透かしを施すのみで、高彫や華やかな象嵌を施すことも少ない。
 写真例が阿弥陀鑢(あみだやすり)と呼ばれる表面仕上げ。阿弥陀鑢とは阿弥陀如来の背後に描かれる光背のような放射状の鑢目のことで、日足鑢(ひあしやすり)とも呼ばれるが、如来を表現したものではない。この鐔の地金は山銅で、赤銅覆輪を掛けている。この覆輪は固着されておらずに可動である点が特徴。
 彦三の作品の背景にあるのは、手捻りの茶器に通じる美観であると考えている。粘土や陶土を捏ねる手や指先を鎚に代え、渋い色調を示す山銅や真鍮地を好んで用い、その表面に施す文様は、京に代表される着物などの文様表現とは大きく異なり、茶器のように、質朴な景色を指先や掌で愉しむことが目的の一つとされたのではないかと考えている。刻まれた鑢目による文様は決して華やかではない。しかし指先に伝わり来る微妙な質感は、鉄鐔の表面に現われている鎚の痕跡と同様に心の奥底に華を感じさせるのである。