鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桜花紋九曜紋図鐔 神吉

2010-04-15 | 
桜花紋九曜紋図鐔 神吉

 
① 桜花紋九曜紋図鐔 無銘神吉

 
② 桜花紋桐紋透図鐔 無銘神吉

 細川家が用いた家紋を意匠したのがこのお多福形に造り込んだ鐔(Photo①)。櫃穴が擬宝珠状に左右に尖っており、下方には腕抜緒の穴が設けられ、何とも飄逸味のある陰影とされている。ところがここに施されている文様は、肥後金工に特徴的な二重唐草文で装われた桜花紋と九曜紋。林の流れを汲む神吉派では、林の創案した二重唐草の華麗な文様を巧みに取り入れて新趣の鐔を製作している。林又七の枯れた風合いの地鉄に比較して神吉や後代の林の地鉄は精緻な素材を用いて新鮮味がある。ここが大きな特徴である。
 Photo②の鐔も神吉派の作例で、鉄地一色にして他の金属を用いていないが、新味のある鉄の肌合いは特徴的。武家の象徴でもある桐紋と桜花紋を陰陽に組み合わせて地透とした作品。桐は肥後鐔の特徴的な投桐ではなく桐紋くずし。空間構成が巧みである。

桜花文唐草文図鐔 西垣

2010-04-15 | 
桜花文唐草文図鐔 西垣

 
① 桜花文唐草文図鐔 無銘西垣

 
② 桜花文桐唐草文図鐔 無銘西垣

 真鍮地に薄肉彫で桜花と唐草文を濃密に配した図。①は土手耳に仕立て、桜花は、家紋とは風合いを異にする文様表現。②は、お多福木瓜形の平滑な地面に、これも薄肉彫になる桐唐草と桜花文を散し配した作。時を重ねた真鍮地は錆が生じて渋い色調を呈し、殊に鋤き込んだ凹部に錆が溜まって意図せぬ風合いとなる。この渋さが侘茶に通ずると捉えられたものであろう、確かに渋いだけではない魅力が感じられる。肥後金工の中でも、西垣や林の作品には華が感じとれるものが多い。華とは言え、決して美しい花が描かれているという意味ではない。華々しいという意味でもない。特に①は手垢や錆で汚れているようにも見えるが、これを汚いと感じるか、美しいと感じるか。華とは何なのかと問われても、感じとって欲しいと言わざるを得ない。それが肥後金工の魅力。殊に真鍮地に微妙な抑揚変化のある肌合いを映し出して文様とする手法は、平田や西垣の得意とするところである。