今や‘ファーストストライクは打て’が基本

 日本の野球を変えた池田高校の功績の1つにファーストストライクを打順に関係
なく打つというのを常識にした事だろう。


 82年夏に9番打者でありながら2試合連続でバックスクリーンに打ち込み
(それも同点と勝ち越しHR)恐怖の9番打者と言われた山口博史が打ったのが
共に初球だったのだが、当時の常識は‘下位打者の使命はヒットを打つよりも
投手に1球でも多く投げさせる事’だったので打たれた投手達も‘9番だから追い
込まれるまで打たない’という考えで楽してストライクを取りに行った球を打た
れたのだった。


 そう池田以前の高校野球の常識の1つに極端な事を言えばクリーンアップ
以外は‘相手投手を疲労させるため追い込まれるまで打ってはいけない’という
のがあった。


 実際‘エースに おんぶに抱っこ’というスタイルがチーム作りの基本だった
時代だから複数投手制を取るチームでも大事な試合ではエースの連投になる
し、打撃レベルも低かったため相手エースを疲弊させるために球数を多く投げ
させるという攻撃がセオリーになっていて我々田舎の弱小校ですら下位打者は
初球打ちしてヒットを打つより10球ほど粘ってアウトになる方が褒められていた
のだ。


 逆に言えば投手達はクリーンアップ以外の打者は追い込まれるまで打って
こないという事で楽してストライクを2つ取っていた事になる。


 ところが池田が打順に関係なくファーストストライクを打つスタイルで一時代を
築くと
同じ100球でも全神経を集中した投球になるので疲労度も高くなり、複数
投手制を取るチームが主流になるしムダな四死球を出す投手では甲子園にすら
出場できなくなった。


 そうなると球数を投げさせて疲弊させても同じレベルの投手にスイッチされ
るし、四球すら望めないとなれば待球戦法は意味がなくなる。


 だから最近の高校野球はファーストストライクを打っていくスタイルが主流に
なっているし、そういうスタイルで活躍した選手がプロ入りするのでプロ野球も
その流れになるのは当然とも言える。


 10年の日本シリーズG3で1-1の4回裏2アウト満塁の場面でマリーンズの
2番・清田が2-0からフルスイングして走者一掃の3ベースを放ち試合を決めた
シーンがあった。


 ドラゴンズの先発・山井は この回2アウト2・3塁から1番・西岡をストレートの
四球で歩かせ満塁とし、カウント2-0となったところでストライクを取りにいって
打たれたのだが‘まさか2番打者が2-0からフルスイングしてくるとは思わな
かった’とキャッチャーの谷繁共々語っていたのが印象的だった。


 つまりセ・リーグではクリーンアップ以外は同じような場面では追い込まれる
まで待つのに対しパ・リーグは打順に関係なくストライクを取りにきた球を積極
的に打っていくというスタイルの違いが分かる。


 ダルビッシュや田中ら好投手が揃うパでは打順に関係なくストライクを取りに
きた球を打っていかないと得点できないと同時に、こういった好投手が育つの
も全球を集中して投げないといけない環境の下で投げているという事だろう。


 それを考えると高校時代と同じスタイルで打てるパの方が強打者も育ち
やすいし、実際 高校時代に強打で鳴らしたT岡田や中田翔がクリーンアップに
定着しているのもパならではではないかと思うのだ。


 にも拘らずファーストストライクを打って凡退すると今でも非難するOBが多い
のには閉口するし、そういうOBやコーチが日本野球の発展を妨げていると
しか思えない。

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