「懸幕(かけまく)も恐(かしこ)き 皇大御神(すめおおみかみ)を
歳(とし)の中に月を撰(えら)び
月の中に日を撰(えら)び定めて
霜月の秋の御門(みかど) 仕え祭(まつ)りて申さく
高天原(たかまがはら)に 神(かん)積(つま)ります
天(あめ)の石倉(いわくら)押し放ち
天(あま)の石門(いわと)を忍(お)し開き給ひ
天の八重雲を 伊豆(いづ)の道別(ちわ)きに 道別(ちわ)き給ひて
豊葦原(とよあしはら)の美豆穂(みづほ)の国に
美豆(みづ)け給ふとして
国郡(くにごおり)は佐波(さわ)にあれども
紀伊国(きいのくに) 伊都郡(いとのこほり)
庵田村(あんだむら)の 石口(いわくち)に
天降(あまも)りまして
大御名(おおみな)を申さば 恐(かし)こし申さずば恐(かし)こき
伊佐奈支(いざなぎ) 伊佐奈美(いざなみ)の命(みこと)の御子
天(あま)の御蔭(みかげ) 日の御蔭(みかげ)
丹生都比売(にうつひめ) の大御神と 大御名(おおんな)を顕はし給ひて
丹生(にう)川上
水分(みくまり)の峰(みね)に 上り坐(まし)て国かかし給ひ
下り坐(まし)て十市(といち)の郡(こおり)
丹生に忌杖(いみづえ)刺し給ひ
下り坐(まし)て巨勢(こせ)の丹生に忌杖(いみづえ)刺し給ひ
下り坐(まし)て宇知郡(うちのこほり)の
布布木(ふふき)の丹生に 忌杖刺し給ひ
上り坐(まし)て伊勢津美(いせつみ)に太坐(おおまし)
下り坐(まし)て巨佐布(こさふ)の所に 忌杖刺し給ひ
下り坐(まし)て小都知(おづち)の峰(みね)に 太坐(おおまし)
上り坐(まし)て天野原(あめののはら)に 忌杖刺し給ひ
下り坐(まし)て長谷原(はせののはら)に 忌杖刺し給ひ
下り坐(まし)て神野麻国(こうののまくに)に忌杖刺し給ひ
下り坐(まし)て安梨諦(ありだ)の夏瀬の丹生に 忌杖刺し給ひ
下り坐(まし)て日高郡(ひだかのこほり) 江川の丹生に忌杖刺し給ひ
返り坐(まし)て那賀郡 赤穂山の布気(ふけ)といふ所に
太坐(おおまし)て 遷(うつ)り幸(いでま)して
名手村(なてのむら) 丹生の屋(や)の所に
夜殿(よとの)太坐(おおま)し 遷(うつ)り幸(いでま)して
伊都郡(いとのこほり) 佐夜久(さやひさ)の宮に太坐(おおま)し
則(すなわ)ち 天野原(あめののはら)に上り坐(まし)
皇御孫(すめみま)の命(みこと)の宇閇湛(うこへ)の任(まにま)に
於土(うへつち)をば下に掘り返し
下土(したつち)をば於(うへ)に掘り返し
大宮柱(おおみやばしら) 太知(ふとし)り立て奉り給ひ
高天(たかま)の原に 知木(ちぎ)高知り奉り
朝日なす輝く宮 夕日なす光る宮に
世の長杵(ながき)に
常世の宮に静まり坐(ま)せと申す。」