一葉一楽

寺社百景

太宰府天満宮 ー 人から神へ

2014-09-18 10:07:45 | 神社
「越延喜五年(905)秋八月十九日。創祠堂以祟。神明也。是時乎。藤原仲平。味酒安行。為経営監事。」と(「群書類従 巻七十七」 所収)にあり、「天満宮安楽寺草創日記」(「神道大系 大宰府」所収)は「御墓寺、延喜十五年(915)、安行始造、同十九年(919)。安楽寺、安行建立、或云、延喜十年(910)」と記し、廟所を中心とした寺院が形成されていったことが読み取れる。
「本朝文粋」に源相規の詩序が載っているが「廟立之後。六十余𢌞星霜推移苺苔之色弥厚」。康保元年(964)である。その間北野天満宮は天慶五年(942)に創建、北野に天暦元年(947)遷座、天神として祀られていた。「建立造営之後。干今十四箇年之間。奉為天神所済之雑事。改造御殿五箇度。最後所構造立。是三間三面庇檜皮葺也。」と「北野縁起」(「群書類従巻十九」所収)は続け、体裁を整えたことが分かる。
「筑前州大宰府安楽寺菅丞相祠堂記」には、「初霊舎猶為矮少。逓代漸加壮麗。」とあり、道真の曾孫、菅原輔正が中門・回廊を造営した永観二年(984)までには菅原道真を天神として祀る天満宮に名実ともになったのであろう。その基本形は太宰府、北野両社の本殿身舎部分に残っているのではなかろうか。その後付加し続け、北野は石の間造へと発展し、太宰府は拝殿のない、正面のみを彩色し、背面は素木とした姿の五間社となった。外陣には、車寄せを付けるなど開放的で、あたかも拝殿の役割を果たしているようである。

   

    本殿

志賀社は心字池に囲まれている。この心字池の中島には、文政四年(1821)の「筑前名所図会」では多宝塔が描かれている。江戸時代までは寺院と神社と渾然一体とした形であった。一方的に仏教施設を排除したことは、菅原道真は天満大自在天神と神仏習合した神号を追贈されており、即ち創建時の意図が喪失したことを意味するのではないだろうか。もっとも宗祇の時代に、安楽寺衰退が、既に現れていたのかもしれないが。

志賀社

2014年5月撮影
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観世音寺・戒壇院 ー 石のみぞ昔の形見

2014-09-04 13:09:43 | 寺院
文明十二年(1450)宗祇は「諸堂・塔婆・回廊皆跡もなく、名のみぞ昔の形見とは見え侍る。観音の御堂は今に廃せる事なし。さては阿弥陀仏のおはします堂、又戒壇院、かたの如く有」と「筑紫道記」に書く(新日本古典文学大系 岩波書店 1990年)。貝原益軒は「名」を「石」とする天和三年板本版を採るが、より現状に近い。宝永九年(1709)完成の「筑前国後風土記」では益軒、「凡いにしへよりありて、名高くいかめしかりし寺院も、世遠くありてもてゆけば、おほくはたえはてて、其あとのみぞ残れる。そのかたは残りながら、あるかひもなく、おとろへすたれるもあり」と、更に「いまめかしき梵宇は、かへりて日々にあらたに栄え侍る」と続ける。寛永五年(1631)黒田忠之の金堂、また元禄元年(1688)黒田光之・天王寺屋浦了夢一族の講堂再建を受けてのことである。その直前の慶長三年(1598)では「本堂のみわづかに残れりといへども、扉も軒もあらはならば、雨は仏のみかほをうるほすとぞみえたる」状態であった(是斎重鑑「九州下向記)。それは現在も変わらない。講堂は裳階を設け、取り敢えずの意匠を整えてはいるが(更に今の白壁は昭和三十五年までは板壁であったそうである)、金堂同様、須弥壇の上でも天井を張らず、化粧屋根裏で極めて簡素である。仏像を安置するというよりは、風雨をしのぐための収蔵庫の感は免れない。寺領を維持できなかった別当も含め、黒田家の積極的な関与は見てとれない。戦国の世が終わり、寺社の復興には不可欠なものが欠けていたと云わざるを得ない。信仰の対象ではなく、懐古の対象となっていたこと、そして官寺そして観世音寺の寺領をあてにした東大寺の末寺として生き残ってきたことが、支持を少なくしたのであろう。まさに名のみで今があるのだろう。(「古寺巡礼 西国6 観世音寺」淡交社 1891年、「太宰府市史 建築美術工芸資料編」1998年)

   講堂

  金堂

戒壇院はそんな観世音寺から独立。天下三戒壇の一つから、臨済宗の一地方寺院となったが、寺として生き残るこたができたと云えるのではないか。本堂は観世音寺講堂と似た禅宗様に見えるが、細部は和様であり、「延喜五年観世音寺資財帳」(「太宰府市史 古代史資料編」所収)にある「檜皮葺堂壱宇」「板葺礼堂壱宇」とは全く異なる姿である。延宝八年(1680)再建後も修理・改造が繰り返され活動が維持されたようである。

   戒壇院

(注)2014年5月撮影
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