ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

三谷幸喜作「国民の映画」

2014-05-05 10:23:01 | 芝居
3月3日パルコ劇場で、三谷幸喜作「国民の映画」をみた(演出:三谷幸喜)。

1942年、ベルリン。ナチスの宣伝大臣ゲッベルスは各種芸術に対して様々な規制を行っていた。映画作品はランク分けされ、評価
基準に満たないものは公開を禁じられた。この格付けの最高位は「国民の映画」という名称で、これを与えられた映画は5年間で
5作品だけだった。
ゲッベルス(小日向文世)は映画ファンで、自宅で執事フリッツ(小林隆)に操作させて日々映画鑑賞を楽しんでいたが、アメリカ映画「風と
共に去りぬ」の面白さに圧倒され、ドイツも名作と言われる映画を作らないといけない、と考える。彼は新しい映画を作るべく、自宅に映画
関係者を集めてパーティを開くが…。

「カゼトモを超える作品にしないといけないんだ」と焦るゲッベルスが可笑しい。
読売演劇大賞最優秀作品賞など8つもの賞をさらった作品にしては、意外なことに会話の間(ま)が長くて間延びした感じ。かったるい。

ヒットラーのことは「あのお方」と言われる。普通は「総統閣下」だろうけど、もしかしたら本当に、側近の間では「彼」と呼ばれていたの
かも。不気味さと恐ろしさを感じさせる。
ヒムラー役の段田安則が薄気味悪さを出す。
セリフのないピアニストが誰もいない部屋で一人ピアノを弾いていて、調子に乗って思わず「 Wunderbar!」(いいね!)と口走るのも面白い。
作家ケストナー役の今井朋彦は、評者がこれまで抱いていたケストナーのイメージとはだいぶ違っていたが、実際は(若い頃は)こんな感じ
だったのかも。

それぞれの人物に見せ場が与えられていて見応えがある。さすが手だれの劇作家だけのことはある。
「 Zucker Zucker …」と歌うツァラ・レアンダー役のシルビア・グラブが出色。

だが後半、一人の人物の運命が急転する。その恐ろしい状況の中でも、脚本家は観客を無理やり笑わせようとする。それには抵抗を感じる。
ちょうど、「ベッジ・パードン」のラスト近くでベッジの最期が語られる時と同じだ。愛らしかった彼女が最後は惨めな死に方をした、と
いう話を聞いて我々観客は驚きと戦慄と悲しみに打たれるが、そこにまでも脚本家は笑いの要素を無理矢理ねじ込む。我々は仕方なく、
何やら泣き笑いのようなことになってしまう。
どんな悲惨な状況にあっても笑いを忘れないで、という三谷さんの気持ちは分からないでもないが…。

それと、これから絶滅収容所に送り込まれる人を前に、そこで使うために開発された強力な毒物チクロンBについて話したりするだろうか。
彼への配慮とかそういう意味ではなく、まだ最高機密だったのでは?収容所で彼が仲間たちに話したら、間違いなくパニックや大暴動が
起こって厄介なことになるだろうに。まるで彼が透明人間であるかのように話題にするのは変だ。



コメント
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