ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ディスグレイスト」

2016-10-03 00:22:31 | 芝居
9月16日世田谷パブリックシアターで、アヤド・アフタル作「ディスグレイスト」をみた(演出:栗山民也)。

2013年ピューリツァー賞受賞、2015年トニー賞にノミネートされた話題作の日本初演。

ニューヨークの高級アパートに暮らすアミール(小日向文世)はパキスタン系アメリカ人。企業専門の弁護士事務所に所属する優秀な弁護士だ。
妻のエミリー(秋山菜津子)は白人の画家。
ある日、彼の甥エイブ(平埜生成)が訪ねてくる。エイブはアミールに、自分たちの宗教的指導者が逮捕されたので助けてほしいと訴える。
アミールは拒否するが、エミリーは助けるべきだと主張する。結局彼は審問に立ち会い、人生の歯車が狂い出す・・・。
ある夜、アミールと同じ事務所で働く黒人弁護士ジョリー(小島聖)と、その夫でホイットニー美術館のキュレーターであるユダヤ人のアイザック
(安田顕)が訪ねて来る。エミリーの作品がホイットニー美術館に展示されるお祝いのパーティだったが・・・。

登場人物はたった5人なのに、白人、黒人、ユダヤ人、イスラム教徒と、アジア系・ヒスパニック系以外の主な人種が顔をそろえている。
いかにもニューヨークらしい人種間の軋轢が主なテーマの作品だ。こういう、日本人にとってかなり難解なテーマを扱った芝居に果敢に挑戦
している人々(演出家、そして役者たち)に尊敬の念を抱いてしまう。

アミールは、自分が生まれたのはインドだと主張するが、ちょうどその頃列強の介入による線引きで、そこはパキスタン側になっていた
のだった。だがかたくなにそれを認めようとしない彼は、パキスタン人であることを隠し、インド人だと思われたがっているようだ。
米国でのイスラム教徒の生きにくさが分かる。

パーティのメインディッシュがローストポークという点に引っかかった。意味深だ。他にもチキンやビーフやラムやいろいろあるのに、なぜ
よりによってポークにするのか?普通一番無難なのはチキンと言われている(牛はヒンズー教徒にとって聖なる動物だからダメだし、豚は
イスラム教徒には汚れた動物だからダメなので)。
アミールが熱心なイスラム教徒ではないということをパーティの客たちに暗に印象づけるためなのかも知れない。だがエミリーはイスラムに
強い親近感を抱いているはずなのだが・・・。

9.11のことがパーティで話題に上ったが、あの件に関しては評者も複雑な思いがある。
米国人は被害者意識だけを前面に出してはいけないのではないか。ちょうど日本が、被爆国であるがゆえに被害者面ばかりしていてはいけないように。

時の経過をもう少しはっきり分かるようにしてほしかった。ロンドンに行く前と行った後とで二人の人物の関係に大きな変化が起こるわけ
だから、そこのところをもっと明確にしてくれたら、より面白かったと思う。

エミリーの心情が今ひとつ分かりにくい。夫を愛していたのかどうかも怪しいし、アイザックとのことも一夜の過ちとは言えないし。
裕福な暮らしがしたいだけだったのか、と勘ぐりたくもなる。プライドが高いことは確かだ。芸術家だし。

白人女性を妻にしたいイスラムの男と、裕福な暮らしを望む白人の女。彼らは利害が一致したわけだ。だが結局、妻の正義感と浮気な性分
によって男は破滅する。すべて自分のせいなのに、女の側に悪びれるところがほとんど感じられないのが不思議だ。

黒人弁護士ジョリー役の小島聖は背も高く、姿勢が良くてかっこいい。
秋山菜津子と小日向文世はもちろん期待通りの好演。

人種問題と宗教間の対立がテーマの硬派な芝居かと思いきや、終盤、ただの男女の痴話喧嘩めいた展開になって驚いた。
コメント
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