3月26日青年劇場スタジオ結で、篠原久美子作「マクベスの妻と呼ばれた女」を見た(演出:五戸真理枝)。
青年劇場創立60周年、築地小劇場開場100周年記念公演第一弾とのこと。
名前を持たない「マクベス夫人」に、シェイクスピア作品の中から飛び出してきた女たちが問いかける。
「マクベス夫人、あなたのお名前は?」
父に従い、夫に尽くし、子に仕えることを美徳として生きてきた女の答えとは・・・(チラシより)。
時は戦争が起こりうるあらゆる時代。
舞台は戦争が起こりうるあらゆる場所に立つ、マクベスの城。
マクベス夫人と侍女たちは、フォレスの戦いで英雄となった夫からの手紙に浮き立つ。
そこに国王が今夜城にやってくるという知らせが入る。
城で働く女中たちは、王様ご一行をもてなすためにてんやわんや。
一行が到着し、無事に一夜明けるもつかの間、殺された国王が発見される。
女中たちは国王殺しの犯人を捜しはじめるが・・・(パンフレットより)。
マクベス夫人(松永亜規子)のそばにはデスデモーナ(武田史江)とオフィーリア(竹森琴美)が仕えている。
城の台所をあずかるのは、女中頭へカティ(福原美佳)、女中ポーシャ(八代名菜子)、ケイト(江原朱美)、ロザライン(秋山亜紀子)、
クイックリー(蒔田祐子)、そして新入りのシーリア(広田明花里)だ。
門番の妻ジュリエット(島野仲代)は80歳で、仲間たちに、昔ロミオと駆け落ちした話ばかりする。
ケイトというのは「じゃじゃ馬慣らし」のヒロイン・カタリーナのことで、その言動は、いかにもはねっかえりの彼女らしくておかしい。
「奥様」(=マクベス夫人)はいつも下の者にやさしく、争い事が起こると「広い心で許しておあげなさい」とほほえみつつおっしゃるが、
それでムカつく女中もいる。
だってその結果、後始末をしなくちゃいけないのは、奥様じゃなくて私たちなんだから、等々。
奥様にはやはり、下々の気持ちが、あまりよくお分かりにならないようだ。
国王が殺され、部屋付きの番兵2人をマクベスが「王の仇!」と殺してしまう。
誰が王を殺したのか。
女中たちは推理する。
実は、ポーシャとシーリアが小さなことに気づいていた。
へカティ「お皿が割れたら、その破片を拾ってつなぎ合わせると、元のお皿の形になるように、各自の気づいたことをつなぎ合わせれば、
犯人がわかる」
上の人たち(=貴族たち)は国外逃亡した2人の王子たちが犯人だと言っている。
だから、それと違うことを言い出すものではない、下手すればこっちの首が危ない、と尻込みする者も出る。
シーリアが気づいたのは、床についた血の跡。
血のついた長い衣を引きずって歩いた者がいる。
ポーシャは、けさ、デスデモーナとオフィーリアが血のついた布を燃やしているのを目撃した。
この2点から、へカティは、犯人又は犯人を知っている者は女で、デスデモーナとオフィーリアは犯人を知っていてかばっている、と推理する。
ここでケイトが言い出す推理がおかしい。
犯人は(王の次男)ドナルベーンよ。前日、王が皆の前で、兄で長男のマルカムを王位継承者に宣言したので、恨みに思って父王を殺害したものの、
兄に告白、兄はそれを聞いて「そうか、俺の配慮が足りなかった、もう王位なんてどうでもいい、二人で出家して諸国修業の旅に出よう」と言って
逃げ出したのよ。
女中たちは呆れて、「想像力が豊かなのは認めるけど・・」と言って彼女の推理を却下。
へカティは、大胆にも奥様を罠にかけることを提案。
殺された国王の幽霊が出たという芝居をうつ。
その夜、オフィーリアはショックで倒れる。
マクベス夫人とデスデモーナは気丈に振舞う。
夫人は女中たちに「今見たことは他言無用」と告げる。ますます怪しい。
次の策は、城での宴会の際、血のついた布と短剣をマクベスの椅子の上に置いておき、彼の反応を見るというもの。
案の定、彼は取り乱し(と言っても彼は舞台には登場せず、夫人が一人芝居で表現する)、
マクベス夫人はお客たちの前で弁解する。
ある夜、オフィーリアがふらふらと歩き回り、手を洗う真似をし、「あんな老人にこんなに血があったなんて」と、本来マクベス夫人が言うはずのセリフを言う。
舞台両端の黒い紗幕の陰で見ていた女中たちは驚く。
これで犯人はマクベス夫妻とわかった。(のか?だけどなぜオフィーリアが夫人のセリフを?)
シーリアの姉は父親に売られそうになり、姉妹で家を逃げ出して数日間楽しく暮らしたが、見つかってしまい、姉は入水自殺したという。
(シーリアというのは「お気に召すまま」に出てくる女性で、従妹ロザリンドを姉のように慕い、彼女が追放されると
一緒にアーデンの森に逃げる)
女中たちは、それぞれ身の上話をする。
マクベス夫人が女中一人一人と対話する。黒衣をかぶった女たちは一人一人、夫人から道徳的な事柄について責められる。
例えばシーリアは、なぜ城に訪ねて来た父を追い出したのか、とか。他の一人は、なぜ親に逆らったのか、とか。
ポーシャは「学問をしたかったのに、女はしなくていい、と言われ、親の決めた相手と結婚させられそうになった」。
いかにも彼女が言いそうなことだ。
ポーシャは「ヴェニスの商人」に登場する高貴な女性だが、例の「箱選び」だって、たまたまラッキーなことに、好きな人が正しい箱を選んでくれたからいいものの、
彼女の人生がかかったイチかバチかの大博打だったのだから。
冗談じゃない!と言いたかっただろう。
へカティが、奥様に聞きたいことがあります、と言い出し、「奥様の名前は?」。
女中たち全員が、モップで床を叩きながらこの質問を繰り返して夫人に迫る。
夫人が困っていると、デスデモーナが澄まして「女に名前なんていりません・・」。
でも彼女にはデスデモーナというれっきとしたいい名前があるから、まるで説得力がない(笑)。
ラスト、マクベスは戦に負けて自害(?)
デスデモーナとマクベス夫人も短剣で自害しようとするが、へカティが何度も止める。
だが、まずデスデモーナ、次に夫人が死ぬ。
女中たちが集まって来ると、へカティは突然、言い出す。
「奥様は狂っていた。夫をそそのかして何人も殺させ・・。しかし特にマクダフの子供たちを殺したことではさすがに気が咎め、
自ら死を選び、デスデモーナも後を追った」と。
みな戸惑う。
シーリアが「なぜ奥様が気が狂ったと?」と尋ねると、へカティは言う、
「後の女たちのために、夫に従順だった妻でなく、悪女として後の世に語り伝えるのよ・・」
マクベス夫人にファーストネームがないことは、以前から多くの人が気がついていた。
作者はこの点に注目し、彼女を、夫に従順な妻として描こうとしたようだ。
その点は、ちょっと賛同し難いが、戯曲自体は、楽しく面白かった。
この作品を作者が執筆したのは1990年頃だというから、今から30年以上前のことだ。
筆者も、この国の女たちの置かれた理不尽な状況に憤りを抱えてきたので、作者の気持ちは痛いほどわかる。
だが、演出の五戸真理枝が書いているように、最近の社会の動きを見ていると、「ごく近い将来」何か大きな変化が起きるかも知れない
とも思われる。
青年劇場創立60周年、築地小劇場開場100周年記念公演第一弾とのこと。
名前を持たない「マクベス夫人」に、シェイクスピア作品の中から飛び出してきた女たちが問いかける。
「マクベス夫人、あなたのお名前は?」
父に従い、夫に尽くし、子に仕えることを美徳として生きてきた女の答えとは・・・(チラシより)。
時は戦争が起こりうるあらゆる時代。
舞台は戦争が起こりうるあらゆる場所に立つ、マクベスの城。
マクベス夫人と侍女たちは、フォレスの戦いで英雄となった夫からの手紙に浮き立つ。
そこに国王が今夜城にやってくるという知らせが入る。
城で働く女中たちは、王様ご一行をもてなすためにてんやわんや。
一行が到着し、無事に一夜明けるもつかの間、殺された国王が発見される。
女中たちは国王殺しの犯人を捜しはじめるが・・・(パンフレットより)。
マクベス夫人(松永亜規子)のそばにはデスデモーナ(武田史江)とオフィーリア(竹森琴美)が仕えている。
城の台所をあずかるのは、女中頭へカティ(福原美佳)、女中ポーシャ(八代名菜子)、ケイト(江原朱美)、ロザライン(秋山亜紀子)、
クイックリー(蒔田祐子)、そして新入りのシーリア(広田明花里)だ。
門番の妻ジュリエット(島野仲代)は80歳で、仲間たちに、昔ロミオと駆け落ちした話ばかりする。
ケイトというのは「じゃじゃ馬慣らし」のヒロイン・カタリーナのことで、その言動は、いかにもはねっかえりの彼女らしくておかしい。
「奥様」(=マクベス夫人)はいつも下の者にやさしく、争い事が起こると「広い心で許しておあげなさい」とほほえみつつおっしゃるが、
それでムカつく女中もいる。
だってその結果、後始末をしなくちゃいけないのは、奥様じゃなくて私たちなんだから、等々。
奥様にはやはり、下々の気持ちが、あまりよくお分かりにならないようだ。
国王が殺され、部屋付きの番兵2人をマクベスが「王の仇!」と殺してしまう。
誰が王を殺したのか。
女中たちは推理する。
実は、ポーシャとシーリアが小さなことに気づいていた。
へカティ「お皿が割れたら、その破片を拾ってつなぎ合わせると、元のお皿の形になるように、各自の気づいたことをつなぎ合わせれば、
犯人がわかる」
上の人たち(=貴族たち)は国外逃亡した2人の王子たちが犯人だと言っている。
だから、それと違うことを言い出すものではない、下手すればこっちの首が危ない、と尻込みする者も出る。
シーリアが気づいたのは、床についた血の跡。
血のついた長い衣を引きずって歩いた者がいる。
ポーシャは、けさ、デスデモーナとオフィーリアが血のついた布を燃やしているのを目撃した。
この2点から、へカティは、犯人又は犯人を知っている者は女で、デスデモーナとオフィーリアは犯人を知っていてかばっている、と推理する。
ここでケイトが言い出す推理がおかしい。
犯人は(王の次男)ドナルベーンよ。前日、王が皆の前で、兄で長男のマルカムを王位継承者に宣言したので、恨みに思って父王を殺害したものの、
兄に告白、兄はそれを聞いて「そうか、俺の配慮が足りなかった、もう王位なんてどうでもいい、二人で出家して諸国修業の旅に出よう」と言って
逃げ出したのよ。
女中たちは呆れて、「想像力が豊かなのは認めるけど・・」と言って彼女の推理を却下。
へカティは、大胆にも奥様を罠にかけることを提案。
殺された国王の幽霊が出たという芝居をうつ。
その夜、オフィーリアはショックで倒れる。
マクベス夫人とデスデモーナは気丈に振舞う。
夫人は女中たちに「今見たことは他言無用」と告げる。ますます怪しい。
次の策は、城での宴会の際、血のついた布と短剣をマクベスの椅子の上に置いておき、彼の反応を見るというもの。
案の定、彼は取り乱し(と言っても彼は舞台には登場せず、夫人が一人芝居で表現する)、
マクベス夫人はお客たちの前で弁解する。
ある夜、オフィーリアがふらふらと歩き回り、手を洗う真似をし、「あんな老人にこんなに血があったなんて」と、本来マクベス夫人が言うはずのセリフを言う。
舞台両端の黒い紗幕の陰で見ていた女中たちは驚く。
これで犯人はマクベス夫妻とわかった。(のか?だけどなぜオフィーリアが夫人のセリフを?)
シーリアの姉は父親に売られそうになり、姉妹で家を逃げ出して数日間楽しく暮らしたが、見つかってしまい、姉は入水自殺したという。
(シーリアというのは「お気に召すまま」に出てくる女性で、従妹ロザリンドを姉のように慕い、彼女が追放されると
一緒にアーデンの森に逃げる)
女中たちは、それぞれ身の上話をする。
マクベス夫人が女中一人一人と対話する。黒衣をかぶった女たちは一人一人、夫人から道徳的な事柄について責められる。
例えばシーリアは、なぜ城に訪ねて来た父を追い出したのか、とか。他の一人は、なぜ親に逆らったのか、とか。
ポーシャは「学問をしたかったのに、女はしなくていい、と言われ、親の決めた相手と結婚させられそうになった」。
いかにも彼女が言いそうなことだ。
ポーシャは「ヴェニスの商人」に登場する高貴な女性だが、例の「箱選び」だって、たまたまラッキーなことに、好きな人が正しい箱を選んでくれたからいいものの、
彼女の人生がかかったイチかバチかの大博打だったのだから。
冗談じゃない!と言いたかっただろう。
へカティが、奥様に聞きたいことがあります、と言い出し、「奥様の名前は?」。
女中たち全員が、モップで床を叩きながらこの質問を繰り返して夫人に迫る。
夫人が困っていると、デスデモーナが澄まして「女に名前なんていりません・・」。
でも彼女にはデスデモーナというれっきとしたいい名前があるから、まるで説得力がない(笑)。
ラスト、マクベスは戦に負けて自害(?)
デスデモーナとマクベス夫人も短剣で自害しようとするが、へカティが何度も止める。
だが、まずデスデモーナ、次に夫人が死ぬ。
女中たちが集まって来ると、へカティは突然、言い出す。
「奥様は狂っていた。夫をそそのかして何人も殺させ・・。しかし特にマクダフの子供たちを殺したことではさすがに気が咎め、
自ら死を選び、デスデモーナも後を追った」と。
みな戸惑う。
シーリアが「なぜ奥様が気が狂ったと?」と尋ねると、へカティは言う、
「後の女たちのために、夫に従順だった妻でなく、悪女として後の世に語り伝えるのよ・・」
マクベス夫人にファーストネームがないことは、以前から多くの人が気がついていた。
作者はこの点に注目し、彼女を、夫に従順な妻として描こうとしたようだ。
その点は、ちょっと賛同し難いが、戯曲自体は、楽しく面白かった。
この作品を作者が執筆したのは1990年頃だというから、今から30年以上前のことだ。
筆者も、この国の女たちの置かれた理不尽な状況に憤りを抱えてきたので、作者の気持ちは痛いほどわかる。
だが、演出の五戸真理枝が書いているように、最近の社会の動きを見ていると、「ごく近い将来」何か大きな変化が起きるかも知れない
とも思われる。