と、吉田拓郎のライヴは過去たったの3回だけ観戦している。
それとは別にチケットを入手できたのに拓郎の体調不良のためにツアーがキャンセルになってしまった悲劇も体験したが。
パシフィコ横浜だったか東京国際フォーラムだったかどちらだったのだろう、たぶん2016年の東京国際フォーラムだったと思うのだが(たったそれだけの時間経過がわかんなくなってしまった)開場前の風景を思い出した。
拓郎ライヴの入場待ちの行列の年齢層の高さを実感しつつ、静かに並んでいた。
ほとんどワタクシよりも年長さんばかりの集団あるいは個人だったが、親あるいは祖父母に引率されたとおぼしき家族連れグループの中に10代20代の男女の姿もちらほら見かけた。
ワタクシの2~3人後方にも高校生か大学生かくらいの単独行動らしき若い男性がいて、その若さで拓郎を聴くんだなぁ、拓郎人気は根強いんだなぁ、と、気になっていたのだが。
その若者のさらにすぐ後方にワタクシよりも年長の3~4人のグループがいて、仲間内で交わしている世間話に盛り上がっているようだった。
そのうち、年長グループの中の1人のオバサンが単独行動らしき若者に話しかけているのが聞こえてきた。
「あなた、一人で来たの?」
「あなたの年齢で拓郎を知っているの?」
「どうして知ってるの?」
「お父さんかお母さんがファンなの?」
「拓郎好きなの?」
立て続けにそんな質問が始まった。
話しかけられた若者男性は、
「親が持ってるレコードを聴いているうちに拓郎が好きになりまして。これまでもライヴには何度か来ています。今、自分は浪人中でホントは受験勉強しなくてはいけないのですが、運良くチケットが手に入ったので来たのです。」
と回答していた。
別に聞き耳を立てなくても聞こえてくる距離なので、周囲に話は筒抜けである。
それからオバサンと若者男子との会話が盛り上がりだして、互いに住んでる地名やらの自己紹介めいたやりとりに移った。
2人とも横浜だったか都内だったか、今いるライヴ会場からそんなに離れた場所ではなかった。
オバサンは、
「私は昔から拓郎が好きで、レコードもCDもたくさん持っていて、何度も一緒にライヴに出かけたダンナが何年か前に死んでしまって、この後自分がこの世からいなくなった後の事を考えると、今このままレコードやCDを持っているよりも誰か引き受けてくれる人がいたらどなたかに譲りたいと思っていた。」
さらに、
「もし良かったら、もし興味があったら、あなたのように拓郎が好きな人にお譲りしたい。売ろうとしてるのじゃない、無料で良いからお譲りしたい。」
と、オバサンは自分の電話番号と住所を書いてメモを渡していた。
両者とも善意の人であろうし、若者男性にとって悪い話ではないだろうが、初対面の人にそう言われても困っているようだった。
実は、ホントを言うと、ワタクシとしてはその会話に割り込んで、それならば自分に引き取らせて欲しいと名乗りたかったのだが、次回に東京に来るのがいつになるのかがわからないし、そんなに厚かましく名乗り出るわけにもいかなかった。
「ホントに、気が向いたら、遠慮なく一度連絡して欲しい。」
というオバサンの言葉が終わる頃に開場待ちの行列が少しずつ前に動き出して、入場したワタクシはグッズ売り場に向かったので、オバサンと男の子の会話は雑踏に紛れて聴こえなくなった。
その後、あの二人の会話はどう続いたのだろうか?
その後、あのオバサンの拓郎ライブラリーはどうなったのだろう?
ワタクシの方としては、不幸にもレコードプレイヤーが故障者リスト入りしている状況なので、CDならばいつでも受け入れる事が可能なのだが。