直木賞受賞の『蜩ノ記』や読んではいないが『さわらびの譜』『恋しぐれ』など、歴史・時代小説作家である著者の作品は情感あふれるタイトルが多い。「はだれ雪」とは、「デジタル大辞泉」によれば<まだらに降り積もっている雪><はらはらと降る雪>なのだそうだ。何度か出てくるこの場面の最初は元禄14年11月、流罪となった主人公が山里に足を踏み入れた日から始まる。元禄と言えばそう、例の赤穂浪士の討ち入り。流罪の理由も、その後の主人公の運命も大いに関わってくるのである。これまでも多くの小説や映画に取り上げられてきた題材を著者もまた別の視点から描く。今の時代にもつながる世の不条理、それらに抗う者には絶望しか無いのか。その答えは最終章に、そしてラストの一行<名残の雪の美しさが目に眩しい>に凝縮される。今年の12月、討ち入りものの映画・TVの再放送があればじっくりと観てみたい。