少し変わった、だが幸せだった3人家族の娘。父が亡くなり、母が消えて叔母の家に引き取られる。その娘が公園からいなくなり、後に男とともに発見される。少女誘拐事件と騒がれるのだが真実は二人にしか分からない。世間では少女の行方不明が時折り発生し、長期間にわたって男に監禁されていた事件も過去にあった。だが、すでに究明されている事件内容とこの物語は大きく異なる。少女は自らの意思で青年の家について行き、ずっとそこに住みたいと考えた。動物園に行ったことで発見された時も駆け寄る警察官から青年を逃がそうさえ思った。その後、養護施設で育った娘は若い女性に成長するが、忘れられないのはあの青年のこと。時を経て、再会を果たす二人は周囲からみれば被害者と加害者。常識では分かりえない彼女、そして彼の心のうちを作者は透明感あふれる文章で紡いでゆく。途中、彼女が見た(夜明けに残る月は)消えるようで<消えずに残り続ける>自分自身。そして今、二人は流れにまかせていく。だが、その“流浪”には悲観さは無く、ほのかに希望の灯りさえ感じる。普通とは何かと考えさせ、DVやSNSに晒される個人情報などの社会問題も織り込んだ作品。読み応えあり、2020年本屋大賞の受賞が納得できた。