暑さに弱い大型犬のために軽井沢に移住した著者が山の虜になってしまう。近くに見える浅間山での苦しい登りに音を上げて途中リタイア。もう山に登らないと決めた最初。愛犬を亡くした喪失感から逃れよう2度目の登山も同様に途中まで。でも、頂上に立った時の景色や気持ちを想像して「また登りたい」との心境になる。以降、登山の装備やトレーニングの準備が念入りに描かれ、日帰りの浅間山から山小屋泊りへ入り込む。北アルプスの涸沢、八ヶ岳、谷川岳、富士山、冬山へと。そしてエベレストを近くに望む5545mのカラ・パタールへのトレッキングに。読むほどに自分も登った山々が、小説家の手によって生き生きと蘇ってくる。登る息づかいや難所通過、苦心の末の得られた眺望、達成感に同感。著者自身、作家としての生き方を思いめぐらすシーン。女性登山家としてエベレスト初登頂した田部井淳子さんの半生(『淳子のてっぺん』)を書くことになったことも興味深い。最後に語る四季に恵まれ、厳しさと優しさのある日本の山への思い<山との出会いは、自分との出会い。体力の続く限り、私らしく登り続けていきたい>は胸にストンと落ちた。