瀬戸内の小さな島で出会ったふたり。お互い高校生だった17歳から紆余曲折を経て32歳までのストーリー。銀色に輝く穏やかな海、都会の喧騒とは無縁の世界で、甘くせつないときが流れる。刺激のない島で交わされるのは他人の噂話。似たような境遇のなかで将来の夢を抱きつつも都会と島に別れ、季節が流れていく。ふたりの巡る日々を横糸に、深刻なヤングケアラーやLGBTの問題などが縦糸に織り込まれ、ゆれる心のうち。別離と究極の再会のとき、念願かなって花火を見るシーンがある。花火が<揺れながら地上から放たれて・・・>と打ち上がり、光り輝き花開いた後に<力尽き、尾を引いて海へと落ちていく幾千の星たち>の描写。二人の砂浜に押し寄せては引いていく波の音、一番星が見え始めるトワイライトタイムなどの描き方には唸ってしまう。さすが全国の書店員が絶賛する本屋大賞、作者2度目の受賞作だけある。