まだバブル経済の残滓が色濃く残る頃のことだ。
税務調査の立会いも無事終えて、クライアントに連れられてある歓楽街の大型キャバレーで一息ついていた。精神的に疲れていたので、お酒は控えめにしていたが、やはり酔いは早い。
この店はバンドの生演奏が売りで、ダンスホールと化すこともあるが、その日はTVでたまに見かける演歌歌手のステージがあった。そのせいか、立ち見が出るほどの盛況ぶりで、席に付くホステスさんたちも入れ替わりが激しい。
ステージが終わった後で、我々の席に付いた女性はまさに絶品の美形だった。褐色の美貌も誇らしげにタイから来ましたと自己紹介をした。突き出した胸と引き締まった腰つきも素晴らしいが、少しかすれた声もセクシーであり、是非歌声を聴きたいものだと言うと、後でカラオケ行キマスカ~と色っぽく誘ってくる。
さてどうするかと思案していると、私に目配せするボーイさんがいることに気がついた。フィリピン人のボーイさんで、当時私がしばしば足を運んだ深夜スナックの雇われ店長をしていた。しかし、この時間はこの店で働いているようだ。気になって席をはずし、トイレに行くふりをして、彼の後についていく。
トイレの前の通路に入ると、彼がニヤッと笑って「センセー、彼女、レディボーイよ。知ってるの?」と言ったのに絶句した。私が呆然としていると「彼女の国、オペレーション(手術)多いね」と教えてくれた。とりあえず彼にお礼のチップを渡し、席に戻って改めて彼女をみると確かに肩ががっちりしている。咽喉仏もこころなしか膨らみが見て取れる。
よくよく見ると、手の指も女性にしては太いと思う。しかし、まあ、あの色っぽい胸の膨らみや、細い脚は女性そのものだ。いささか迷うが、おそらくボーイさんの言うとおりなのだろう。
そのうち彼女は他の席へ移っていったので、アフターしてのカラオケの話は立ち消えになった。ちなみに同席していた社長さんは、彼女がレディボーイだとは最後まで気づかなかった模様。社長さんのお目当ては別のホステスだと知っていたので、この件は最後まで内緒にしておく。
秘密はうかつに漏らすものじゃないし、嘘や虚構もこの世界では必要経費。騙されるなら最後まで騙され続けたほうが、幸せなことも少なくない。
その後のことだが、この店は惜しまれつつも閉店した。件のレディボーイだが、思わぬところからその後の事情が分った。なんと、ある日本人青年と結婚したらしい。もっとも四ツ谷の教会で聞いた噂話だから確証はない。
私が知りたいのは、知ってて結婚したのか、それとも知らずに結婚したのかだ。まぁ、当人たちが幸せなら、第三者があれこれ言うのも野暮だと思うから干渉する気はない。ただ、レディボーイであることは確かなようだ。だって、そのことを教えてくれたのもレディボーイだったから。まるで我が身の話のように凄く嬉しそうに結婚の話を教えてくれたので、まず間違いないと思う。
ま、人生いろいろだわな。
税務調査の立会いも無事終えて、クライアントに連れられてある歓楽街の大型キャバレーで一息ついていた。精神的に疲れていたので、お酒は控えめにしていたが、やはり酔いは早い。
この店はバンドの生演奏が売りで、ダンスホールと化すこともあるが、その日はTVでたまに見かける演歌歌手のステージがあった。そのせいか、立ち見が出るほどの盛況ぶりで、席に付くホステスさんたちも入れ替わりが激しい。
ステージが終わった後で、我々の席に付いた女性はまさに絶品の美形だった。褐色の美貌も誇らしげにタイから来ましたと自己紹介をした。突き出した胸と引き締まった腰つきも素晴らしいが、少しかすれた声もセクシーであり、是非歌声を聴きたいものだと言うと、後でカラオケ行キマスカ~と色っぽく誘ってくる。
さてどうするかと思案していると、私に目配せするボーイさんがいることに気がついた。フィリピン人のボーイさんで、当時私がしばしば足を運んだ深夜スナックの雇われ店長をしていた。しかし、この時間はこの店で働いているようだ。気になって席をはずし、トイレに行くふりをして、彼の後についていく。
トイレの前の通路に入ると、彼がニヤッと笑って「センセー、彼女、レディボーイよ。知ってるの?」と言ったのに絶句した。私が呆然としていると「彼女の国、オペレーション(手術)多いね」と教えてくれた。とりあえず彼にお礼のチップを渡し、席に戻って改めて彼女をみると確かに肩ががっちりしている。咽喉仏もこころなしか膨らみが見て取れる。
よくよく見ると、手の指も女性にしては太いと思う。しかし、まあ、あの色っぽい胸の膨らみや、細い脚は女性そのものだ。いささか迷うが、おそらくボーイさんの言うとおりなのだろう。
そのうち彼女は他の席へ移っていったので、アフターしてのカラオケの話は立ち消えになった。ちなみに同席していた社長さんは、彼女がレディボーイだとは最後まで気づかなかった模様。社長さんのお目当ては別のホステスだと知っていたので、この件は最後まで内緒にしておく。
秘密はうかつに漏らすものじゃないし、嘘や虚構もこの世界では必要経費。騙されるなら最後まで騙され続けたほうが、幸せなことも少なくない。
その後のことだが、この店は惜しまれつつも閉店した。件のレディボーイだが、思わぬところからその後の事情が分った。なんと、ある日本人青年と結婚したらしい。もっとも四ツ谷の教会で聞いた噂話だから確証はない。
私が知りたいのは、知ってて結婚したのか、それとも知らずに結婚したのかだ。まぁ、当人たちが幸せなら、第三者があれこれ言うのも野暮だと思うから干渉する気はない。ただ、レディボーイであることは確かなようだ。だって、そのことを教えてくれたのもレディボーイだったから。まるで我が身の話のように凄く嬉しそうに結婚の話を教えてくれたので、まず間違いないと思う。
ま、人生いろいろだわな。