ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

今年を振り返って

2010-12-29 08:56:00 | 日記

今年、一年を振り返ると、読書に関する限り、いささか物足りなさが残った一年でした。

原因は分っています。仕事に追われて、じっくり本を読む時間をとるのが難しかったからでした。前半は仕事は順調であり、好調でもありました。しかし、後半これほどまでに景気が停滞するとは思わず、12月には資金がショートしそうな危機感に襲われる始末です。

預金残高が不安で、日に何度も銀行に足を運ぶ情けないザマでした。これじゃ、読書に集中できない。まァ、新米経営者が陥りやすい状況の一つに過ぎないのですが、我が身で体験すると、傍で見るのとは大違いであることが実感できたものです。

そんな中で、一番印象に残ったのは「戦争サービス業」ロルフ・エッセラーでした。昔風に云えば傭兵軍団ですが、それが軍事サービス提供会社として再生し、世界中で暗躍している現実には本当に驚愕したものです。

これは異常事態です。

歴史を顧みても、国家の正規兵ではない民間の軍事勢力が活躍する時代とは、大きな変動の前触れであることが多いのです。

例えば近代国家が生まれる前の17世紀のヨーロッパは、各地で傭兵軍団が活躍しています。シナでいうなら、地方の軍閥が皇帝の意に従わずに好き勝手していた時代(唐末や、清末)がそうでしょう。いずれも、その後に戦争が相次ぎ、革命と叛乱の末に新体制が生まれています。

20世紀に現れた民間軍事サービス会社は、テロリストに対抗するための手段として登場したことも注目すべきでしょう。18世紀に近代国家が現れて、軍事、通貨、司法を一手に握って以来、非正規の軍事勢力は厳しく抑制されて、社会の治安が保たれていたのです。

しかし、アメリカという超軍事大国が世界の覇権を握って以来、正面からアメリカに挑まず、テロという小規模な戦闘行為で政治的意見を実力行使するようになると、制約の多い正規軍では対応できない。それゆえに、国家に縛られない非正規軍事勢力である民間軍事サービス会社が生まれたのでしょう。

来年は、もう少しこの方面を掘り下げてみようと思います。

さて、小説ですが、これは迷った。再読ではモームの「月と6ペンス」、初読では壺井栄の「24の瞳」を挙げたいと思います。前者は十代の頃はまるで印象が残らなかったのですが、長い療養生活を送り、狂気の淵を彷徨った経験がこの作品を深く味わえることを認めてくれたようです。

一方、有名な「24の瞳」は舞台や映画は観ていたのですが、原作は意外にも初読でした。ストーリーを知っていたにもかかわらず、その感動はいささかも衰えることがない。戦争を頭ごなしに否定することがない好戦的平和主義者の私でさえ、戦争の悲惨から目をそらしてはいけないと自覚させてくれる名作でした。

漫画に関しては、やはり見事なエンディングをみせた「鋼の錬金術士」荒川弘を挙げさせてもらいます。そして新人賞として「進撃の巨人」諌山創に期待したいと思います。

来年も良き本との出会いを願ってやみません。後数日で今年も終わります。みなさんも、良いお年をどうぞ。

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上場廃止の作法

2010-12-28 13:21:00 | 経済・金融・税制

経済界における今年最大のニュースの一つは、日本航空(JAL)の倒産であろう。

上場会社である以上に、国策会社でもあるJALが倒産するなんて、誰が予想したでしょう。いや、そう従業員も経営者も、そして株主も倒産なんかするわけないと思い込んでいたからこそ、抜本的な経営建て直しが出来ずに倒産に至ったのだと思います。

しかし平成22年2月20日に上場廃止となり、資本金の100%減資による会社更生手続きとなりました。

さて、上場廃止までにJAL株を売ってしまえれば、売却損が出せて、申告をしておけば3年間繰り越して、他の株の売却益と通算できます。

しかし、上場廃止時までJAL株を持っていた場合、100%減資により無価値となります。つまり株主大損!

それではあんまりだと云うので、今回は救済措置が設けられています。ただし、一定の条件があります。まず、JAL株が上場廃止前までに証券会社の特定口座に入っていること。そして、上場廃止前までに特定管理口座が開設されていることです。

この条件を満たしていれば、証券会社は「価値喪失株式に係る証明書」を発行してくれるので、これを添付して確定申告をすれば、このJAL株の損失額を「非上場株の譲渡損失」とみなしてくれます。その結果、平成22年中の他の株式の売却益と通算することができ、節税になります。ただし、三年間の繰越控除は適用できません。

実はこのような形で上場廃止株の損失が税制上、救済されるケースはあまり多くありません。私自身、仕事上で手がけたことはなく、多分今回が初めてになるはずです。

なにせ、JAL株の保有者はきわめて多いので、おそらく来年の確定申告時期になると、上記の証明書を実際に目にすることになりそうです。

もちろん、上場廃止になった株式は、これまでも幾つもありました。しかし、上記の「価値喪失株式に係る証明書」が発行されることは稀でした。

なぜかというと、証券会社に特定管理口座を設けるには少なからぬ費用がかかり、多くの破綻企業はその費用が払えず、株主は泣き寝入りで終わっていたからです。

今回、JALは数多の株主対策の意味もあって、金を捻出しての「特定管理口座」設置に至ったようですが、識者の話では、破綻企業のうち、ここまでやってくれるのは2割に満たないとか。

つまり8割がたの上場倒産企業の株式は、売り抜けた場合を除けばゴミ屑化しているわけです。株式を証券市場に上場させた企業は、かなりの経済的メリットを収受してきたわけですから、破産時に株主に迷惑をかける以上、ある程度積み立てておいて「特定管理口座」を設けられるように準備しておくべきではないでしょうか。

法人株主は、破綻株式を損失に落とせるから、株の法人の持合が主流だった過去は問題なかったのでしょう。でも、これまで個人株主は倒産会社の株はゴミ箱に捨てるしかなかった。本当に個人株主を重視しているのなら、この程度の準備は当然だと思うのですがね。でも、私の知る限り、特定管理口座のための準備をしている企業はないです。

企業による株式の持合をやめて、個人株主重視の意向を打ち出した企業は数多あります。でも破綻時の保険として、特定管理口座のための資金くらい、別口で設けておくべきではないでしょうかね。

今回、JALの破綻があって初めて、私は「価値喪失株式に係る証明書」の存在を知りました。こんなんで、いいのでしょうかねぇ・・・

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医療大崩壊 藤田紘一郎

2010-12-27 13:47:00 | 

なるべく薬は飲まないようにしている。

とはいえ、私は毎日10錠を超える薬を服用している。これらの薬は、20代の頃の難病治療のために大量服用した強い薬の副作用に対処するためのものだ。

薬と毒は紙一重であることは、我が身に刻み込まれている。だからこそ、薬はなるべく飲みたくない。だが、免疫力が若干衰えた私の身体は、いささか感染症に弱い。だから風邪を引きやすい。

人の身体は、風邪のウィルスに感染すると、発熱するように出来ている。なぜなら、熱に弱いウィルスを自ら発熱して弱めさせ、免疫システムがウィルスを退治するのを手伝おうとするからだ。

だから、風邪を引いて熱を出した時に、解熱剤を服用するのは、むしろ逆効果なのだ。むしろ暖かくして身体を休めて、発熱により風邪を治すほうが早く治る。後は水分補給を十分に採ることで事足りる。

でも、体温が39度を超すような状態では、身体を休めることもままならないし、むしろ危険でさえある。分っている医者は、そのような場合にだけ解熱剤を処方する。

にもかかわらず、患者の求めに応じて、安易に解熱剤を処方する医者が後を絶たないと表題の著者は嘆く。求める患者も悪いが、知っていて処方する医者がより悪い。

ここ30年、日本の医療は危機を迎えている。その一つの原因に、受験教育の内容を挙げているのが興味深い。とりわけマークシートのように画一的な回答を求める試験で、高得点を挙げる受験生たちの医療への適性のなさに対する指摘が興味深い。

人間の身体は○か×かで区分けできるようなものではない。診断装置が弾きだす数値だけで、人の身体は分らない。医者には、なによりも問診力が求められると著者は力説する。患者に話をさせ、病状を語らせることで、適切な情報を得て、そこから患者を安心させる。それこそが医術の王道なのだろう。

だが、現在の医者の育成体制は、そのような教育をしていない。なにより医の心を育てる教育をしていないことが、医療の崩壊を招いていると、厳しく指弾する。

医者だけではない。厚生労働省のこの30年の指導もまた、医療の心を弁えぬ心無きものであった。中味を伴わぬ行政方針が、地方医療を崩壊させ、患者と医師の双方を不幸に追いやったとの指摘には、私も同意せざるえない。

病院が老人ホームと化し、健康保険が赤字に苦しむことに対処するため、小手先の改正を繰り返し、その対応で大きな出費を強いられた病院の厚生労働省への不信感は根強い。

これは優秀なはずのエリート官僚たちが、医療をまるで分っていないことに起因するのだろう。霞ヶ関のオフィスの中で作案した法令どおりに人が動けば、問題が解決するとの思い上がりが、今日の医療崩壊を招いた。

この医療崩壊は過去の話でもなく、現在も進行中の問題でもある。関心がおありでしたら、是非ご一読を。専門語を避けて、分りやすく書かれていると思います。

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鼻血のTPO

2010-12-24 12:30:00 | 日記

誤解を解くのは難しい。

11月の末に風邪にやられ、鼻をかみすぎて鼻血が出やすくなった。これは20代の頃に大量服用した薬の副作用で、毛細血管がもろくなっているためなので、致し方ないと諦めている。

根本的には、風邪を治すことが先決だとの医者の言い分は、まったくもってその通りだと思う。風邪薬を多用するよりも、暖かくして寝るのが一番だと言われれば、たしかにそうだと思う。

しかし、師走の時期は忙しい。ゆっくりと風邪を治している余裕は無い。動き回らねば、財布の中身が軽くなるばかりなのだ。

そんな訳で、風邪は治りかけたり、再び発熱したりと忙しなく、小康状態が続き完治とは程遠い。おかげで鼻血も週に3回は出る始末である。まァ、大人しくしていれば治るので、あまり気にしないようにしている。

でも、鼻血を出すにも場所と状況を考えないと、とんでもない誤解を生む。

先月末のことだが、某繁華街で夜の蝶を侍らせたお店を経営するママさんから連絡があった。ママさんの誕生日に駆けつける予定であったが、どうしても仕事を抜けられず花を贈っておいたが、それではご不満な様子。

致し方なく、週末の夜、ママさんを連れて某高級焼肉店に行く羽目になった。この店はチェーン店ではあるが、肉の質は常にレベルが高く、お値段もそれなりだが満足のいく内容であった。

胸元が大きく開いたドレスをまとったママさんは、同世代とは思えないほど若々しい。後が怖いので手を出す気にはなれないが、目の保養になることは間違いない。

さて、一通り焼肉を食べて、締めにクッパを頂いているときだ。ふと気がつくとテーブルに赤い血痕が・・・ありゃりゃ、またも鼻血が出てしまった。

慌ててティッシュを鼻に詰めて止血する。我ながら手馴れたものである。服を汚さずに済んで良かったと安堵していると、向かいの席のママさんの目線が険しい。

「まァ、センセイ、ずいぶんとお溜まりですのね・・・お若いですわ」

あやうく吹き出しそうになった。ち、違う~~~

しどろもどろで、風邪のせいで鼻をかみすぎ、そのため鼻血が出やすくなった事情を説明するが、どうみても聞いていない。

その後、ママさんのお店で飲んだのだが、どうも若いホステスさんたちの目線が気になる。なんか、警戒されている気がする。この手の話は、あっというまに広まるので、きっと聞いているに違いない。

説明すればするほど言い訳めいた気がするので、黙ってグラスを傾けることにする。どうせ、薄い水割りだと思っていたが、どうも悪酔いした気がする。

ああ、なんで福沢先生を何人も浪費して、こんな目に遇わねばならんのだ?

憮然とした気持ちで、夜の街を後にした。早く風邪を治そう、それに限る。それにしても、たかが鼻血でこんな目に遇うとは思わなかったぞ。

ヤレヤレ・・・

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進撃の巨人 諌山創

2010-12-22 12:25:00 | 
今年一番の衝撃作。

この世界では人間は食べられる存在でしかない。巨人たちは、いとも容易に人間たちを捕まえ、その場でムシャクシャと食べてしまう。

何故、なんで、そんなバカなとの人間たちの悲痛な叫びなど耳に入らないかのように、無表情に淡々と人間をむさぼる巨人たち。ただ、人間を口にする直前、微かに愉悦の表情を垣間見せる。この表情がおぞましい。

頭を吹き飛ばされても数分で再生する無敵の巨人により、100年とたたずに人類は絶滅の危機を迎えつつある。不思議なことに、この巨人たちは人間以外は食べず、また知性も感じられず、生殖さえしていない。弱点は後頭部の脊髄を傷つけられることだけ。人間にとって、あまりに絶望的な状況でしかない。

人間たちは巨大な壁を築いて、その内側でひっそりと隠れて暮らすしかない世界。そこへ現れた大巨人が、壁を乗り越えて襲ってくる。かりそめの安堵は打ち破られ、目の前で母親を食い殺された主人公は、巨人を唐キ決意を固める。しかし、その前途は絶望の暗雲に覆われている。

別冊少年マガジンで連載され、話題となりヒットしたのが表題の漫画だ。とにかく無表情で人間を貪る巨人たちが浮「。その恐浮Oにした人間たちの姿に、生存競争のピラミッドの頂点からこぼれ落ちた哀れさを感じる。

人類が地上に登場して数百万年。現世人類は、わずか7万年程度の生存期間でしかなく、数億年の地球の歴史からみれば、ほんのわずかの期間でしかない。恐竜をはじめとして、多くの生き物が地球の覇者として君臨したものの、その栄華は化石でのみ知られるだけだ。

現在、地球で繁栄を誇る人類の立場なんて、実は薄氷の上にたつものでしかないことを実感させられる漫画でもある。未だ連載途中であり、物語の行く末もみえない作品だが、一時的人気で終わって欲しくない。是非とも見事な完結を見せて欲しいものだ。

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