ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

青い月のバラード 加藤登紀子

2013-02-28 14:22:00 | 

「女はみんな、さよなら上手。」

この一節だけは忘れずに覚えている。題名も、歌詞もメロディも忘れたが、この歌を歌っていたのが加藤登紀子だということも覚えている。

「知床旅情」や「一人寝の子守唄」などのヒットで知られる加藤登紀子なのだが、私はあの冒頭の一節にひどく傷つき、落ち込んだせいで、あまり積極的に聴きたくない歌手でもある。

別れを綺麗に演出するのは構わないけど、主役は女性であり、引き立て役の哀しいピエロを演じさせられる我が身としては、素直に肯き難い。

だが、彼女の半生を綴った表題の本を読んでみて分かったのは、さよなら上手を望んでいたのは、ほかならぬ加藤登紀子本人であったことだ。

彼女の配偶者は、学生運動の指導者の一人として知られた藤本敏夫氏だ。70年安保に敗れ、内ゲバによりかつての仲間からリンチを受け、警察からも追われた波乱万丈の生き方をしていた人でもある。

加藤登紀子との獄中結婚が有名だが、藤本氏は収監中に農業に目覚め、出所後は無農薬の農業に傾唐オていく。一方子育てと歌手活動に人生を捧げた妻には、それなりの覚悟があり、そう簡単に農家の妻となる訳にはいかなかった。

藤本氏を嫌った訳ではない。ただ、二人の生き方の違いが相剋を産み、葛藤を引き起こし、何度も離婚の話し合いをする。が、分かれることはできなかった。

綺麗に、さっぱりと、さよなら出来たのなら、あれほど苦しむことはなかっただろう。「女はみんな、さよなら上手」の歌詞は彼女の魂の叫びだったのではないだろうか。

男と女が、きれいに分かれるなんてゆめ物語。せいぜい、距離と時間を置いて消え去るように別れるぐらいが関の山だ。私はいつまでたっても、さよなら上手にはなれそうもないね。

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当たり馬券への課税

2013-02-27 12:53:00 | 経済・金融・税制
新聞等のメディアでも、けっこう話題になっているのでご存知の方もいると思う。

私も詳細は新聞でしか知らないが、競馬の当たり馬券で得た賞金について無申告で済ませた方に対して、税務署がはずれ馬券の分を経費と認めず、三年間で5億7千万円の追徴課税されたという。

なんでも三年間で30億円稼いだが、外れ馬券の購入費だけで27億円あるので、その差額に課税されるなら分かるが、利益以上に課税されるのは納得がいかないと裁判に訴え出たようだ。

これだけだと、この無申告の人の言い分に納得する人も少なくないと思うが、この記事いささか取材力不足だと思う。

まず、競馬などの当たり馬券は課税所得である。非課税であることが法令で明示されている宝くじとは異なり、当たり馬券等の賞金は、非課税ではない。これは法令に一時所得として明示されている。

すなわち (収入金額マイナスその収入を得るために直接支出した金額)マイナス50万円×二分の一 で課税所得が算出される。つまり当たり馬券の金額から、その当たり馬券の購入金額を引いた利益が50万円までなら課税されない。

そのため、競馬等の当たり馬券は非課税だと思い込んでいる人がけっこういる。また現実問題として、窓口で現金で交付される当たり馬券の賞金は、税務署といえども容易に把握できない。だから結果的に年間50万円以上稼いでも、その所得は税務署には分からず、無申告でもバレない。

更に付け加えると、収入から控除できるのは、その収入を得るために直接支出した金額に限定される。つまりはずれ馬券の購入額は控除されない。これは一時所得である以上、致し方ない。つまり、はずれ馬券には、経費にもならず、その損失は税務上なんら考慮されない。ヘンに思うかもしれないが、一時所得は課税されても、利益の半分で所得を算定(二分の一課税)する。つまりかなり優遇されているのだ。

私がこの事件を知って最初に疑問に思ったのは、何故に税務署にバレたのか、であった。普通はバレないはずだからだ。考えられるのは、この賞金で高額な物件(不動産等)を購入し、その財源を怪しんだ税務署にバレたケースだ。でも、これは実務上難しく、滅多にないはず。

一番怪しいのは、税務署に密告があったケースだ。この密告という奴は、けっこう当たりが多く、税務署出身の私の師匠である佐藤先生も、現職時代に密告に基づいての税務調査でかなりの実績を挙げたと話してくれた。悪しき平等思想がこびりついている日本人は、ことのほか嫉妬心が強く、急に金回りがよくなった人がいると、脱税など悪いことをして稼いでいるはずだと、税務署に密告するのがお好きな人がかなり居る。

今回は、このケースではないかと私は疑っている。

ところで、この事件のもう一つの肝は、所得税が暦年課税であることだ。つまり1月から12月までの期間で所得を計算する。個人の場合、青色申告などで赤字を3年間繰り越すことは出来るのだが、これは一時所得には該当しない。

つまり当たり馬券の利益は、その年、その年で計算される。だから赤字は繰り越せないのだ。不自然に思うかもしれないが、当たり馬券のように一時的に得られる所得は、50万円まで課税されず、しかもその所得の半分にしか課税されないという優遇措置が設けられている。これは給与や不動産賃貸収入などに比べて、相当に有利な扱いとなっている。この点を無視されては事件の報道としては、相当な勉強不足だと思う。

なお、毎年継続して業務として競馬で稼いでいるのだから事業所得もしくは雑所得としての可能性もある。実際、過去において先物取引による所得を事業所得として申告して、税務署と争った事例もある。

もっとも最高裁は、先物取引を射幸性が高く、労務の対価としての価値を認めず、雑所得として認定してしまい、その判例が確立している。雑所得では、損失の繰越はもちろん、他の所得との通算もできない。競馬の当たり馬券の稼ぎは、先物取引以上に射幸性が高く、賭博そのものであるため事業所得には成りえない。つまり現状では、一時所得もしくは雑所得しか考えられない。

はたして競馬の当たり馬券による所得を雑所得として認定されるのか、私はその可能性を認めつつも、現行の税務行政からみてやはり一時所得だと言わざるを得ない。

五億7千万円の追徴課税は、おそらく3年間の合計だと思う。各年ごとの申告の内容が分からないので推測でしかないが、普通に考えると一時所得のほうが有利だと思うが、訴えたところをみると雑所得のほうが有利だったのか。もっとも新聞の情報では、所得の区分を争うような訴訟なのかどうかまでは分からない。

あくまで個人的な見解だが、この訴訟は国側有利だと思う。はっきり言って、無申告であること自体、心証は悪いし、ギャンブルの損失への印象も悪い。先物取引等の過去の判例をみても、裁判官はこの手の訴えに冷淡なことが多いと思っている。

ただ、競馬で30億儲けた才能は凄いと思う。もし・・・私ならば会社にして、法人として売り上げを計上する。そうすれば、外れ馬券の損失も計上できるし、損失の繰越だって可能だ。まァ、そんな投資会社、実在するかどうかは知りませんがね。
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シャレード

2013-02-26 14:52:00 | 映画

だいぶ前の事だが、アメリカでヘップバーンといえば、キャサリン・ヘップバーンだと言われて驚いたことがある。

もちろん、日本では断トツでオードリー・ヘップバーンだと思う。現在はヘプバーンと表記されているようだが、私は懐かしの記憶に従って、敢えてヘップバーンと記載した。でも面倒くさいのでHと略すので失礼。

一応書いておくと、キャサリン・Hだって名女優であることは間違いない。アメリカでは若手の憧れの的である以上に、お手本的存在でさえあった。長身で個性的で、なにより自立した女性像を演じさせたら随一の名優だ。

一方、オードリー・Hだって十分、名女優の実績を残している。アカデミー、トニー、エミー、グラミー各賞を総なめしただけでなく、名作映画のTOP50に出演作が4作も入っている。

ただ、それでもアメリカではキャサリンのほうが知名度は高い。これはオードリーが70年代から80年代にかけて家庭を重視し、育児に重きを置いたことも一因であろう。

だが、日本では圧倒的にオードリーの方が知名度、人気ともに高い。これはやはり彼女の個人的な資質によるところが大きいと思う。グラマラスとは程遠いスレンダーさは可憐としか言いようがなく、大きな目と相まって妖精のような容姿に憧れた日本人女性は多いと思う。

実のところ、日本では男性よりも女性からの支持の方が高いのではないかと私は思っている。オードリーにはファッションリーダー的なものがあったようで、小柄な日本人には彼女のスタイルは、大柄な白人女優よりもより身近に感じられたようだ。

どちらかといえば、流行音痴、ファッション音痴の私でさえ、亡くなって十年以上たつにもかかわらず、オードリーの写真がファッション誌などに掲載されたり、広告に使われることぐらいは知っている。

彼女の映画が撮られたのが50年代から60年代であったことを思えば、時代を超えた魅力があったのだと評さざるを得ない。

実は先だってCS放送でたまたま映画「シャレード」を放送していたので、現在自宅での休養を重んじていることもあって、じっくり観てしまった。一応、サスペンス映画だと思うが、上記の名作TOP50には入っていない。

無理もないと思う。当時ミステリーの最高峰といえばヒッチコックだが、その作風をなぞったような構成自体は決して悪くない。凝ったシナリオだって十分合格なのだが、一点どうしても困った問題がある。

それは主人公であり、ヒロインでもあるオードリーの存在だ。悲劇の未亡人を演じているのだが、どうしても悲劇の香りが薄い。細身の華奢な体躯を華麗なファッションで装ったオードリーに、どうしても悲劇的な最期を予想できない。

映画を観ながら、絶対ハッピーエンドで終わるよと確信できてしまう。これはオードリー本人が醸し出す独特の華やいだ雰囲気に帰するところが大きい。率直に言ってヒッチコック風サスペンスが似合わない女優だと思う。

もっともオードリー自身は、第二次大戦の戦火の中で育ち、幾多の悲劇を身近に観ながら成人し、女優として大成してからもユニセフの活動など社会奉仕を忘れなかった御人であり、決して不幸を知らずに生きた人ではない。でも、やっぱり凄惨な悲劇や、酷薄な陰謀劇の似合う女優さんではないな。

多分、他の女優さんが演じたら、ヒッチコック風サスペンス映画としては出来が良かったように思う。でも、オードリーが主演したほどには大ヒットはしなかったとも思う。その意味でも凄い女優だと思いますね。

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謎解きはディナーのあとで 東川篤哉

2013-02-25 12:40:00 | 

病室のベッドの上で、思わず体をのたうちながら笑いを抑えるのに苦労した。

確かに楽しい。とりわけ執事の影山とお嬢様警部のやりとりは、捧腹絶倒の可笑しさ。しかも短編なので、気軽に楽しめる点も良い。

ただ、読んでいて、これライトノベル?との印象があったことは否定し難い。読後感が非常に軽いのだ。これで漫画チックなイラストがあったのならば、間違いなくライトノベルだと断言できるほど。

別にミステリーが重厚でなくてはならないわけもなく、このように気軽に楽しめるものがあっても良いと思うけど、この軽さゆえに当初は評価が低かったのだろう。

ご存知の方も多いと思うが、この作品本屋さんの店員さんたちのお勧め本として人気に火が付いた。本屋さんの店員さんは、自らも本好きが多いので、その御眼鏡にかなったというところだろうか。

まぁ、安楽椅子探偵ものとして十分な内容だし、なにより気軽に読めるのが良い。機会がありましたら、どうぞ。

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アベノミクスに思うこと

2013-02-22 13:48:00 | 社会・政治・一般
頭の良い人ほど、現実よりも理論に囚われるようだ。

その典型が、先だって任期前の辞任を公表した白川・日銀総裁だ。この人、未だに経済ってものが分かっていない。安倍政権樹立以来、東京株式市場は上昇機運に乗り、あっという間に1万円を超えてしまった。また円高基調も逆転し、今や100円台を伺う勢いである。

こうなると、これまで不況風が吹き荒れていた日本経済にも明るい兆しが見えてくる。私の知る限りでも、ここ5年近く売るに売れなかった土地が売れたとの報告があったし、なかにはキャンセル料を払ってまで売買契約を取りやめ、新たに値上げした上で売却を狙っている不動産業者もいる。

明らかに潮目は変わったと観るべきだろう。

これは間違いなく、これまで頑なにデフレ政策を固持してきた日銀及びそれを容認してきた政府のやり方が間違っていたことを意味している。少なくとも市場はそのように理解している。この現実が白川氏には見えないのだろう。まァ、本音は見たくもない、のだろうね。エリートはプライド高いから。

ところで、安倍総理が打ち出したアベノミクスなる新経済政策の中身はどうなのだろうか。

実はここに大きな問題がある。はっきり言えば、それほど新味はなく、かつての自公政権の時とあまり違いは感じられない。一応、確認しておくがデフレ政策自体は、自公政権の時から維持され、民主党政権はそれを継続したに過ぎない。

もっと言ってしまうと、アベノミクス自体に日本経済を刷新するほどの中身があるとは思えないのだ。その意味でアベノミクスに反対するエコノミストらの意見は分からなくもない。私自身、その中身を高く評価することは出来ないと思うからだ。

それでも現実の経済は動いた。まだ一割程度の金融緩和に過ぎないが、それでも市場はそれを評価した。だからこそ株価は上がり、不当に高値が付いていた円が急落して実態に近づきつつあるのだろう。

景気は気分で動くこともある。長いデフレ政策で委縮していた市場心理を動かした。これは厳然たる事実であり、教科書エリートの白川氏には理解しがたいのだろう。

ただ、本音を言うと私自身、まだまだ景気回復を疑っている。不安要素の一つに金融特措法の期限切れがある。亀井大臣が打ち出した銀行への返済猶予のための法律の適用を受けている中小企業は少なくない。

この金融特措法の期限が切れると、返済猶予は停止となり、以前の返済に戻らなくてはならない。景気が未だ十分回復していない以上、この特例を受けていた中小企業は耐えられるだろうか。

私は大いに疑問をもっている。おそらく3月から4月にかけて金融特措法の期限切れによる梼Yが相次ぐと予想している。これが景気回復の足を引っ張るのではないか。

特例の適用を受けているのは中小企業なので、景気全体への影響は小さいかもしれない。そうあって欲しいと願う反面、中小企業相手の税理士でもある私にとっては、顧問先の減少にもつながる一大事である。率直に言って悩ましい。

本音を云えば、金融特措法の適用を受けていること自体、既に破綻寸前であることを意味しているので、梼Yは必然だとの思いもある。その一方で梼Yによる悲劇を間近で幾つも見てきたので、同じ光景が広がるのに胸を痛めるのも予想できる。決して観たい光景ではない。

したがって今の段階では、私は景気の浮揚に懐疑的だ。なにしろ具体的な数字がまだ上がっていないので判断しかねる。ただ、空気は変わった、それは確かだと思う。

私はデフレと不況を望んでいる訳ではないので、金融緩和と景気回復を切に望んでいますが、それを数字で実感できないことが残念。今年夏までで、結果は出ると思うので、ここはじっくり観察しようと思います。
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