ということで、生中継を見終えました。
アンドレ・ベルトの闘い方は、力及ばずではあっても、方向性としては正しいものだったと思います。
トレーナーにバージル・ハンターがついていたそうですが、なるほど一流の指導者というものは、
ボクサーをこれほど正しく導き、良き示唆をもって闘わせられるものなのだろうか、と感心しました。
踏み込んだ距離での相打ちで、より良い右の角度とタイミングを取って打ち勝つ、という以外に
あまり持ち味を感じなかったベルトですが、抜群の距離感と反射神経を持つフロイド・メイウェザーに対し、
強いが当たる確率が見込めない右を控え、速い左を多用して間を詰め、メイウェザーに楽をさせない試合運びは、
もちろん完全にとはいかずとも、これがメイウェザー攻略への、遠回りに見えて一番の近道である、という意味で
見ていて納得感のあるものでした。
メイウェザーは、格下(あくまで、メイウェザーと比べたら、ですが)の相手が、思いのほか
力んだ無理押しに出てくれないので、けっこうやりにくそうで、思うに任せない感じでもありました。
もちろん要所に巧技を見せ、最近の試合よりは力感の見える右カウンターを打っていましたが、
残念ながらベルトを止め、闘志を断ち切るほどではなく、得意の突き上げる左のカウンターも決まらず。
最終回の右アッパーは見事でしたが、追撃はならず、拍子木の音を聞くと踊り出す、お寒い締め括りでした。
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本人が言うには「引退」なんだそうですので、メイウェザーへの思うところを、ざっと振り返ってみます。
リッキー・ハットン戦までのメイウェザーはまだ、ボクシング界を代表する天才として、
その試合ぶりには説得力を感じましたが、一時引退というか休養を経てのファン・マヌエル・マルケス戦以降は、
カネロ戦のような大仕事はあったにせよ、基本的には「驚異的な才能を持つ、変わり種」の域を出ていなかったと思います。
例えばウェルター級史上最高、レナードよりも上と言われる「マンテキーヤ」ホセ・ナポレスと比較すると、
見る者の想像を超えた防御勘、速さや巧さは共通しても、やはりそれを防御というのを通り越した「保身」と
「自己顕示」にばかり使っている、という印象が拭えません。それは突き詰めてしまえば、メイウェザーの弱さなのでしょう。
中継終了後、ジョーさんが「メイウェザーはボクシングを誤った方向に進化させた」と語りましたが、ほぼ同感です。
ビジネス面のみならず、ボクシングの競技形態においても、おそらく様々な意味で、大きな揺り戻しが起こることでしょう。
そして、それを「ポスト・メイウェザー」の時代とするなら、その時代はもうすでに始まっていて、
その流れの中で彼が試合前からしきりに語っていた自賛の言葉は、遠からずその意味を失っていくことでしょう。
試合前のインタビューでの、空疎な言葉の数々や、Tシャツにプリントされた"THE BEST EVER"のロゴには、
正直、反発を通り越して、哀れみさえ感じました。
これだけの才能を持ち、大金を稼ぎ...しかし、彼のことを、過去のみならず未来永劫、最高のボクサーと
位置づける人はどのくらいいるのでしょう。私は、その中には入らない一人です。
とはいえ、過去にもあれこれつべこべ書いてきたように、過去の一定の時期においては、本格派とは言えずとも
ボクシングというものが生み出した、特異な才能の持ち主として、他では見られない希有なる天才性を、
彼自身のやり方で十全に表現して見せてくれました。
そのことに対しては、改めて敬意を払わねばならない、そう思わせてくれる存在でもありました。
あと、引退云々については、本当なら本当でいいし、翻意があるならそれもいいでしょう、という感じです。
ボクシングの歴史上で、未来永劫、最高のボクサーとして語られる資格がある者など、ごくごく少数です。
もちろん人ぞれぞれに意見があるにせよ、シュガー・レイ・ロビンソンとモハメド・アリは外せないでしょうが、
それ以外に何人のボクサーを取り上げることが許されるでしょうか。デュランでもアルゲリョでも厳しいでしょう。
そして、あともう一試合があろうがなかろうが、その中にフロイド・メイウェザーが入るとは、私には到底思えません。
どうなとしたらよろしい、という感じ、ですね。
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今回、中継終了後、ジョーさんが久々に、ボクシング批評家らしい仕事を(TVで)してくれましたね。
正直、中継自体は、高柳さんの実況が、注意力や集中に欠けた散漫なものでしたし
(最近、他のスポーツでも目に付きますが、試合中に何が起こっているかを無視して「お話」が優先されてしまう)、
今回のマッチメイクへの評も非常に甘く、どうにも見ていて気分の良い物ではありませんでした。
しかし、それまでいろいろ制限されていた部分もあったのか、試合終了後、言わずにおれないという風で
久々に往年のジョーさんを少し思い起こさせる「評」が聞けましたね。
もちろん賛意もあれば異見もあるんでしょうが、一応お金払って見てる番組なんですから、
視聴者向けの宣伝の体裁に従うばかりではなく、きちんとした「評論」があって然るべきです。
かつぐ神輿の言いなりになって、その筋立てに従うばかりの、阿呆な地上波の中継とは、
ひと味違うところを見せてもらいたい。そういう日頃の不満が、少しだけ解消されました。
これからも、この調子で頑張ってもらいたいものです。