さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

強者ゆえの不安/いつもの攻めあぐみ/独特の左/やはり感傷的になります

2014-04-26 11:31:07 | 長谷川穂積


長谷川の試合に気を引かれすぎていて、他の試合について何も書いてませんでしたので、
一応、というとナニですが、動画紹介と共に、簡単に。

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山中慎介は相手選びが大変という話がどうやらウソでもないらしい、と納得させられる強さでした。
しかし、あれだけ強打出来る場面が多いのに、もっと厳しく詰められないかな、とは感じました。

左ストレートは上下ともに非常に強いですが、返しの右がもっと出ないかなと思います。
マルコム・ツニャカオ戦などでは、ツニャカオが相打ち狙いで右を合わせてくるタイミングが見えて、
それを察知したから敢えて出さなかったのかな、と感じましたが、今回の試合では、
そこまで慎重になるような何かが相手にあったかな、という気がしてなりませんでした。
この辺は難しいところもあり、無理して出すと、左の威力を生み出すバランスが崩れてしまう可能性もあり、
得意のパンチだけで試合を支配出来ているなら無理する必要は無い、という判断なのかも知れませんが。

ただ、倒した後や、いいのが入ったあと、ゆったり見過ぎ、構え過ぎという印象は、どうしても消えません。
容易い勝利はボクサーを弱くする、というモハメド・アリの言葉を出すまでもなく、
ああいう、緩いリズム、甘い判断を身体が覚えてしまうと、今後のためにならん、と強く感じます。
山中慎介が強者であるからこそ、その陥穽はこういうところにあるのではないか、と。

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粟生隆寛はまあ、この人が格下相手に攻めあぐむときはこうやなぁ、
こういう試合、何回も見たなぁ、またかいな...という試合でした(笑)

137ポンドという契約体重には少々驚きでした。確かに上半身はますます分厚くなっていて、
これで強い相手とやったとき、攻めてくる相手にあのタイミングでカウンターが決まったら、
相当な威力が出るだろうなー、とは思いましたが、今回は相手が引いてしまうので以下略、というとこでした(笑)

ライト級で世界となると、誰に行くのか次第でしょうが...このクラス、
えらく巧いのも、強いのもいますけど、ボクサー人生最大の大勝負、って感じで、
そういうところに挑んでほしいと思います。

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前座に出た元全日本王者、中澤奨はデビュー三戦目、痩身のタイ人を初回ノックアウト。
ロングの左フック、一発でした。
あのナックルの返り方が独特な左フックは、見た目以上に威力があるようです。
G+でも放送されるでしょうから、しっかり見直してみたいものです。ホントに変わってるんですよねー。

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最後に動画紹介。毎度お馴染み「せやねん」です。
これ見ると、いろいろ言いたいこともある反面、やはり、感傷的になってしまう自分がいます。

しばし時を経て、またこのような場で、長谷川穂積の姿を見ることがあるでしょう。
その時はまた、紹介させていただきます。







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天才故に勝ち、天才故に敗れる 長谷川穂積、終焉の夜に思い出す光

2014-04-24 01:51:51 | 長谷川穂積


昨夜は大阪城ホールにて観戦してきました。


負ければ引退、最後の挑戦、と喧伝された試合は、敗北に終わりました。

打ち合いが得意な王者、キコ・マルチネスを相手に、ロープ際の危険な立ち位置に長居し、
右に回ることをせず迎撃し、連打を外せず打たれダウンし、致命的なダメージを2回にして負う。
3回以降、手負いの状態で、果敢に反撃して場内を湧かせましたが、
やはり先手を取られダメージを負った身体には、逆転する力は残っていませんでした。

7回、最初のダウンで試合を終えていても、何も文句は無かったはずです。
余分な続行とダウン追加、今頃なタオルが中に舞った時、試合は終わっていました。

きつく言えば、ロープを背負って足を止め、右回りをせず左を狙うリスキーな選択は、
ノンタイトル戦でも完全に相手のパンチを外しきれていない現実から目を背けた失策であり、
しかも強打、連打による攻撃ボクシングが売りのマルチネス相手に、その失策は命取りでした。

身も蓋もなく言えば、長谷川穂積は実に稚拙な負け方で、無惨に敗れました。


しかし、それも仕方ないことだったのだろう、とも思います。

ジョニー・ゴンサレスに敗れた夜、彼を強者たらしめた何物か...
それは天性、勘、時の勢い、様々なものだったのでしょうが、
普通のボクサーには手の届かない高みに立ち、巧さと強さを十全に発揮していた頃の、
彼自身の強さを、二度と再現できないのではないか、と感じたものです。

そのとき思ったことが、こうして改めて現実になった。そういう試合でした。

かつての彼なら、ロープを背負って、相手に狭い空間に押し込められて連打されても、
真っ向から速い連打を打ち返し、主に左の上下を強引にヒットさせて相手を止めたり、
下がらせたりしていたものです。それが出来ていたから、悉く試合に勝っていた。

ファイターと分類される相手にも、接近した打ち合いを許しても、その打ち終わりを
正確なカウンターで叩いて、ダメージを与え、倒すきっかけにさえしていた。

そして、その記憶、感覚を捨て去ることは、その高度さ故に不可能だったのでしょう。


かつて、圧倒的な巧さと強さを誇った天才的なボクサーたちが、
ひとつの敗北によってその強さの拠り所を失い、目に見えて衰えたという風でもないのに、
二度とかつての輝きを取り戻せず、敗北を重ねてゆく姿を、何度も見てきました。

キャリアの頂点を経て、そこから転落したのち、再度新たなスタイルを構築し、
再度、成功するというのは、本当に難しいことです。
歴史上を振り返っても、カシアス・クレイ/モハメド・アリ以外に、ほとんど例のないことです。
そして長谷川穂積もまた、例外ではあり得なかったということなのでしょう。


かつて、天才故に勝ってきた彼も、その天才故に苦しみ、そして敗れた。
それを再び、思い知らされた一戦でした。



彼のキャリアは、おそらく昨夜をもって終わることでしょう。
神戸の小さい会場で判定負けをした彼の姿を初めて見て以来、
長きに渡り、彼の試合を追いかけてきてました。
当然、最初は若く未熟でしたが、可能性に満ちた姿を見て強く心を揺さぶられたものです。
そして、その才能に強く惹きつけられ、その成長の過程を見ることが出来ました。

思えば、長い物語だったような気がします。
けっして豊穣の大地とは言えぬ、日本のボクシング界において、
東洋レベルの壁だったジェス・マーカを攻略、辰吉、西岡の仇敵ウィラポン打倒を実現し、
移籍問題を経ての10度防衛、5連続KO防衛を果たす過程で、
彼は様々な問題により揺れ動くボクシングというスポーツの社会的信用を護る
最後の砦のような存在にさえなりました。

神戸のジムから世界王者誕生、というひとつの夢物語の枠を超え、
彼は多くの人々の心中を征く者となり、それ故に背負ったことどももまた、
ひとたび苦境に立った彼自身を苦しめたことでしょう。

その果ての敗北は、厳しく言えば、天才故の稚拙、と断じられて然るべきものでした。
しかし、それを責めることなど、誰に出来ようはずもありません。

彼はその才能を努力によって成長させ、誰にも手の届かないような高みに立ち、
その鮮やかな数々の勝利によって、人々を魅了してきました。
そして、様々なものを喪い、それでもなお、優勝劣敗が歴然と切り分けられる闘いの場で、
その宿命に挑み、最後には敗れたのです。


私はこの10数年間、ボクシングファンとして、本当に幸福だったと思います。
辰吉丈一郎という、けして忘却を許さない強烈な存在が去ったのち、
長谷川穂積というボクサーは、その空白を埋めてくれる存在でした。

そして、その才能、実力は、従来の日本のボクサーの枠を超えて、世界王座統一戦や、
実現はしなかったけれども盛んに待望された海外進出の夢などと共に語られ、
長谷川の活躍以後、日本のボクサーは、より開かれた世界へ闘いの場を広げてゆきました。
彼自身がその夢をかなえられなかったことは残念ではありましたが。


長谷川穂積というボクサーは、私にとり、確実にひとつの「時代」そのものでした。
彼がその天才故に苦しみ、敗れた夜に、私は彼が与えてくれた数々の光を思い出していました。
悲しいような、しかしどこか清々しいような、今はそんな気持ちです。


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「全てを出し切りたい」 長谷川穂積、孤独で壮絶な決意の言葉

2014-04-20 19:11:26 | 長谷川穂積



水曜日の試合に向けた長谷川穂積のインタビューは、専門誌はもちろん、
スポーツ誌にも掲載されていますし、TV番組も含め、いろいろ見聞きしました。

しかし、最も印象的なのが、以前長谷川がモンティエルに敗れ、ブルゴス戦で再起するまでを
密着して描いたノンフィクション「211」の著者、水野光博氏によるこのインタビューです。


今の長谷川穂積を語るときに、どうしても気になる部分は、
何が何でも勝つ、という、わかりやすい決意表明とはまた違った、数多くの言葉です。

それは、ベテランと言われる領域にさしかかった、数多のボクサーが抱える屈託を、
長谷川穂積もまた、抱え込んでいることの証です。

IBFの当日計量制度の話から語られる、自身のコンディション調整の難易度。
年齢を重ねたことにより生じた、ボクサーとしてのみならず、人としての意識の変化。
今回の試合に対する、精神的な意味合い、位置付けに対するこだわり。

これらを語った後、最後に彼は「勝たねばならぬのは相手より先に自分」と締め括ります。
勝ち負け以前に「全てを出し切りたい」のだ、とも。


こうした方向のコメントは、過去に他のボクサーからも出たことがあります。
概ね、登り坂にある、若いボクサーではなく、一定の成功を収め、ファンや一般に
広く認知された段階にあるボクサーから、これに類する言葉を聞くことが多かったように思います。

以前の私は、こういう言葉に対して、反射的に反駁を覚えたものでした。

自分自身より、まず相手に勝つことが目的だろう、何を言ってるんだ。
そんな自己満足を語るヒマがあったら、少しは相手のことを研究して、水漏れ無しでリングに上がる姿を見せてくれ。
それがプロたる者の仕事であり、使命ではないのか。

まあだいたい、言葉にするとこんな感じです。


しかし、それなりに長くボクシングを見てきた上で、そして、いよいよキャリアの岐路にさしかかり、
敗北はイコール引退であると、自他共に認めてしまっている一戦を間近に控えた長谷川穂積のこれまでを
あれこれ振り返ってみるに、もはや、単純にそういう思いではいられなくなっています。

彼自身の才能、それを成長させてきた努力、それによって勝ち得た数々の勝利と栄光は、
ひとたびの敗北を機に、あらゆる面において、彼自身を最も苦しめてもきた。
その現実の重さ、ままならぬ自分自身との闘いをくぐり抜け、様々に抱えた屈託や葛藤をも乗り越えて
彼自身が語る決意の言葉には、あまりにも濃い孤独の影と、壮絶なるもうひとつの闘いの跡が見えます。

ボクサー長谷川穂積が、そのキャリアを通じて、拠り所としてきたいくつかのものを喪い、
その喪失を埋めるために辿り着いた「自分自身との闘い」という境地において、
今回の試合は闘われます。それだけが、今の時点で見える、この試合の全風景です。


当然、水曜日の試合が終われば、毎度の通りとりとめもなく、何事かを書き、語るわけですが、
試合が終わった後にどういう振り返り方をすることになるか、今はわかりません。

ただ、かつてのように、長谷川穂積が語ったような「境地」を、無下に切り捨てられるような自分であったら、
ある意味、楽に見られる試合だったのにな、という思いでいます。
何だか、本当に重苦しい気分です。もちろん、闘うボクサー本人より苦しいわけもないのですが、
これはこれで、けっこうなものやなぁ、なんて言うのは、言葉が過ぎるでしょうか。




なんのかんのというても、あと三日ですね。
終わったあとに、何をごちゃごちゃ、わけのわからんことを書いたんや、あほやなぁ、と
明るく振り返ることができたら、何よりもさいわいなことですが...。




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古都凱旋/いわくなど付いてない/ジョー魂(笑)/選手第一で/決戦一週間前!

2014-04-16 11:47:51 | 話題あれこれ


村田諒太の4戦目は京都府立体育館、現在は島津アリーナというんだそうですね。
関東圏での開催だと思い込んでたので驚きですが、この人は奈良出身で高校は京都ですから、
考えてみれば地元凱旋ということになるんですね。

ちと見に行ってみようかなー、前座にも京都期待の若手選手が出るの出ないのと
漏れ伝わってくることだし...なんて思ってるんですが、平日開催ですので、
私の住む田舎からだと、意外に終電がシビアだったりして、悩んでおります。
心理的にはある意味、東京行くより難しい。困ったものです。
どうせなら奈良でやってくれれば...。

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帝里木下、IBF王座決定戦出場が決まり、20日の試合はエキジビションに変更。
興行としてはいろいろ大変なことばかりでしょうが、救いというか、
このEXの相手を、和氣慎吾が務めるとのことで、これはなかなか良い話ですね。
7月に岡山で、OPBF圏内では最強の挑戦者の一人であろう、李ジェーソンと防衛戦をやるそうで、
時間が取れたら、ちょいと足を伸ばして、久々の岡山観戦と行きたいものです。

で、話は戻ってこの記事ですが、何も「いわく付き」ってことはないですよね。
帝里木下と、強豪ゾラニ・テテというカードは、あの次男さんがやった試合のどれよりも、
世界戦として中身のあるものになるでしょうし、むしろ今回、空位決定戦という運びになった結果
「いわく」が取れた、と私には思えるんですが。

で、そのテテが元王者ファン・カルロス・サンチェスを倒した試合、動画です。



やっぱ、こっちのがホントですよね。5回と6回にダウン応酬、10回、衝撃のワンパンチ。
帝里はこの、サウスポー対決に勝ってきてる強敵と闘うわけです。
先日のランディ・カバジェロといい、世界の「ホンモノ」って、やっぱり凄いです。
もし日本開催なら、何とかこの目で見たい試合ですね。

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ジョー魂、ですって。
スポニチの企画に乗った記事なんでしょうが、さすがにねぇ。
ま、突っ込みだしたら終わらないんで止めときますが、無理矢理にもほどがありますで、とだけ。

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八重樫、井上、揃って練習再開

次は9月くらい、とのことです。八重樫はロマゴン戦で決まりなわけですが、井上の次はどうなるんでしょうかね。
何とか、選手の体調第一の選択をしてほしい、と、この手の話には毎度の通り思うんですが、
興行の論理により、結局は選手にしわ寄せが行く、という日本ボクシングの「鉄の掟」が
これほど桁外れの内容と結果を残した逸材にも、変わることなく課せられるんでしょうかね。
たまりませんね(>_<)


あと、長々と書いてある、井岡一翔との対戦云々は、正直言って興味がありません。
井岡の今後次第で、見解が変わるかもしれませんが、現時点では。
ま、スポーツ新聞の記者さんたちにとっちゃ、行数稼げて有り難い話題なんでしょうけども。

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決戦まであと一週間。恒例のトミーズ雅さんご訪問。



沖縄キャンプで体幹トレーニングを初めて取り入れたとかで、その効果なのか
下半身が安定しているという見立てがありました。
これまで、足の不調に悩まされてきた長谷川にとり、それが改善されれば
ひとつ、明るい材料だと言えそうですね。

決戦まであと一週間。長谷川の試合については、平常心で見られない傾向のある私ですが
今回も毎度の通り、すでに緊張し始めています。
お前が緊張して何の意味がある、というツッコミが聞こえてきますが...。
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豪快KO、試合後も爽快 小原佳太OPBF獲得、亀海喜寛戦を希望

2014-04-15 06:13:00 | 関東ボクシング


昨夜のフジNEXT生中継は、三試合とも好ファイトの末KO決着、見応え充分でした。

メインの小原佳太は、強打ジェイ・ソルミアノの先制攻撃を受けながらも、巧みに対処して
4回、左フックのカウンターで倒し、ダメージ深い相手を左アッパーから右ストレートでKO。
正確で強いカウンター、好機での厳しい詰め、いずれも見事でした。

ラフながら角度を変えて攻めてくるソルミアノの攻撃は脅威で、スリルのある試合でしたが、
しっかり迎撃しての鮮やかな倒しっぷり。小原佳太、なかなか役者やな、という感じ(^^)
日本から東洋にステップアップして、今後が楽しみ...と思っていたら、試合後のインタビューでは
亀海喜寛戦を希望する旨を表明しました。

どの程度実現性のある話なのかはさっぱりわかりませんが、最近はフジの興行にも帝拳系の選手が
ちょくちょく出たりもしていますし、その流れの上にある話なのでしょうか。だったら良いなぁ、と思いますが。
ファンの勝手を言えば、後楽園ホールのメインとしてやるのももちろん良いですし、
何なら八重樫、井上の次のアンダーに、ということなら、それも大変有り難いです(^^)

それにしても、小原のコメントは非常に印象的なものでした。

「誤解してほしくないんですが、勝てると思っていません。」
「凄く強くて、世界挑戦を狙っている方なので、でもその合間でもいいので、一戦やってほしいです」
「自己中心的な考え方ですが、自分のキャリアを考えて、やらなければならない相手」

あれほど「男前」なKO勝ちの直後にしては、ずいぶんと謙虚な物言いでした。
好みはそれぞれありましょうが、私なんかは「ホンモノというのは、ホンモノなればこそ、謙虚なんやなぁ」と
非常に好感を持ちました。何とか実現の方向で進めてもらいたいものです。


セミ、というには勿体ないこれも好カード、戸部洋平vs江藤大喜戦は、
両者抜群の体格、リーチを誇る本格派ボクサーファイター同士の真っ向勝負でしたが、
戸部洋平が、過去最高の仕上がり具合で、スピードも切れ味も抜群。
けっして実力的に大差があるわけでもないでしょうが、あらゆる局面において、
常に少しずつ戸部の方が速く、深く、鋭い。
江藤も健闘したもののワンサイドの展開、9回、戸部の右で江藤ダウン、即座にストップでした。

とにかく戸部が素晴らしかった。リングに上がって体つきを一目見た瞬間から、
これはおそらく、相当充実した練習をこなし、最高の状態なのに違いない、と刮目しましたが、
実際動き出したらその通りでした。これまで見た中で最高の戸部洋平だったと思います。


スーパーフェザー級注目の若手、伊藤雅雪はまたも見事なタイミングの右でKO勝ち。
サウスポーの中野和也とダウン応酬でしたが、中野のバランスが前に出る瞬間を何度も捉える、
振りが小さく、最短距離で飛ぶ、当て際の強い右が勝負を決めました。
このクラスは世界王者二人を筆頭に、金子大樹、内藤律樹、仲村正男、尾川堅一など、
ランキングの上から下まで、それぞれに見所のある選手が並びますが、伊藤もその枠内に入る存在です。
待ちの時間が少し長く、その間を埋める部分が課題でしょうが、非常に才能を感じますし、
上手く「部品集め」をしてもらいたいですね。今後が楽しみです。


フジNEXTの放送では、例によってホールのバルコニーに放送ブースを設置して、
女子アナ、千原さん、ゲスト選手という並びで進行してました。今回のゲストは八重樫東。
全試合終了後には、先日のダブル世界戦興行で闘ったロマゴンの無冠戦映像を流し、
八重樫にコメントを求め、対戦への展望を語るという「煽り」を繰り広げていました。

八重樫は謙虚な中にも決意を秘めたコメントをしていましたが、こういうのはなかなか良いですね。
小原佳太の亀海戦希望コメントも同様、やはりボクシングは試合数が少ないだけに、
連続性のある展開は難しいものだったりしますが、可能な限り、こういう方向を目指してもらいたいものです。
ビジネス面、関係者間の調整など、大変な面もありましょうが、その努力の結晶の受け皿として、
最近ボクシングに力を入れているフジの健闘に期待したいところです。

先日はちょっと批判しましたが、今回は試合内容も良く、次への「展開」がふたつ見えたこともあり、
改めて期待を込めて、褒めてみました(^^)

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「最強の格下」に手こずる パッキャオ、雪辱果たすが「復活」は先送り

2014-04-13 23:41:02 | マニー・パッキャオ

今日の生中継、メインについて簡単に。


けっして弱い選手だとも思いません。かなり速くて巧くて強い、と言える部類の選手です。
でも、やはりティモシー・ブラドリーは、この手の試合に出る「顔」ではない。それを改めて見た試合でした。

もちろん、勝つために必死なことを責めるつもりはありません。
しかし、世界注目のビッグマッチ、と分類される試合において、
相手の左を食いたくないから、目線を切ってまで下を向き、頭を嫌がらせに振りかざして打つ、
ごまかしの手数で優勢を演出し、攻めて、引いて、印象点を取りに行く、とやっているのを見ると、
そのあまりの「格下」ぶりに驚き、節操の無さに呆れもします。
こんな風に闘わねばならないほど、力のない選手だとは思わないだけに、余計に。

途中で足の具合が悪くなったか、と西岡利晃が指摘していましたけど、
そうであったとて、あの闘いぶりというか、やり口では、
結果が残らなかったら、それ以外何もなし、それこそ手ぶらでリングを降りねばならない。
プロボクサーとして、そのことが怖くないのかな、考えが及ばないのかな、と不思議でさえありました。

試合後、同時通訳を困らせるペースであれこれつべこべくちゃくちゃと話してましたが、
今後二度と、彼をWOWOWの生中継で見ることはないでしょう。あ、前座ならあるか...。


で、そういう相手をひたすらもてあまし、手こずっていた。
それが今日のパッキャオに抱いた印象の全てです。

試合始まった時点で、まあこちらの目玉の勝手なんでしょうが、以前よりずいぶん小さく見えました。
あの思い切りの良い踏み込みから放つ左ストレートは、下を向くブラドリーに当たる角度がなく、不発。
ブランドン・リオス戦のように、左から右と当てての右回りを試みるも、
その身のこなし以上に大きく上体を振られてしまう。
そもそも相手に、強く攻めようという気がないのに、何故「捌き」にかかるのか、
パッキャオらしくもない弱気というか、その発想が納得できません。

とにかく、攻めるのも捌くもの中途半端で、どうにも煮え切らない感じのまま、試合は終わりました。

この試合を見て、勝ちは問題ないにせよ、今後に明るい展望はとてもじゃないが見えないでしょう。
相手の「なりふり構わず」が一定の次元を越えたものだったことは考慮するにしても、
そんなものは問答無用で叩き落としてしまうだけの速さや、踏み込みの思い切り、
そして精度があったはずのパッキャオの攻撃は、最後まで影を潜めたままでした。

これ、次の相手選びが、かなり難しくなりそうな感じもありますね。
少なくとも、我々がいまだに捨てきれない、メイウェザー戦実現という夢に関しては、
近づいたとか遠のいたとかいう以前に「それどころじゃない」という印象が残りました。
ちょっと残念な試合でした。

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新旧対決、彼はもう「旧」の側にいた 久高寛之、松本亮に判定負け

2014-04-10 00:17:43 | 久高寛之


もう10年以上前の話になります。

当時、ある4回戦ボクサーと縁があって、応援していたことがあります。
その選手は、すでに数戦のキャリアがあって、ある試合で初回KO勝ちを収めました。
観戦しに会場へ行けなかった私のために、試合映像のビデオを送ってもらって、それを見ました。

当然、結果は知っていて見たのですが、私は応援していたその選手よりも先に、
これがデビュー戦だという、対戦相手のボクサーの動きに目を奪われました。

力み無く、しかし高くガードを掲げ、上体を柔らかく、リズミカルに振って、
構えた位置から伸びてくるジャブ、鋭く飛ぶ後続の右ストレート。
一目見て、普通のボクサーとは段違いの素質が見て取れました。

しかし、私の応援していたボクサーは、素質では劣ったかも知れませんが、
よく鍛錬を積む努力家で、勇敢な試合ぶりを見せるのが常でした。
この試合でも相手の鋭い攻撃を浴びつつも果敢に踏み込み、右クロスをヒットさせて反撃、
返しの左、ワンツーなども交えて、結果としてツーダウンKOで勝利を収めました。

見終えて、よくぞこの相手に勝ったものだ、と思う、短くも激しい、壮絶な試合でした。
聞けば試合後、勝ったにも関わらず、その選手はしばらく、険しい表情を崩さなかったそうです。

「結果は勝ちでしたが、相手、強かったです」
「完全に屈服させたかというと、全然違います。もう一回やったらわからないです」

この選手は、この次の試合で、6回戦昇格をかけた試合を引き分けたのち、引退を決意します。
私の目には、もっと上を目指せるのでは、と映る、芯の強さを持つ選手でしたが、
自らの先行きに対して、彼自身は極めて厳しい断を下しました。


そして、この敗れた、デビュー戦のボクサーは、その次の試合も判定で落とした後、
3戦目から連勝街道を走って、全日本新人王の座に就くことになります。

その後の彼、久高寛之のキャリアについては、改めてあれこれ書くまでもないかもしれません。
数々の強敵と、場所を選ばず拳を交えるも、日本、東洋の王座を獲れなかったマイナスを語られる反面、
世界的な選手と数多く闘い、そのいくつかに勝利した、国際色豊かなキャリアは、
少なくとも私にとっては、一定以上の納得感があるものでした。

しかし、三度目にして初めて地元で挑んだウーゴ・カサレス戦の、歯がゆい「敗退」と、
昨年の敵地アルゼンチンにおけるオマール・ナルバエス挑戦における完敗を経て
さすがに引退か、と勝手に思っていたところ、今回の大興行に彼が出場すると知りました。

正直なところ、感慨深い何事かが、私の心中にあったわけではありません。
ああ、この手の試合に、あの久高が出るのか、というだけのことでした。
もちろん、寂しく感じはしましたが、彼に対して、ここから何かを期待する、
激しい気持ちで応援するぞ、というような心境にはなっていませんでした。


対戦相手の長身、松本亮は、序盤から圧倒的な体格、リーチの差で、久高を圧倒しました。
久高が懐に入れたか、と思う瞬間もありましたが、そこには振りが小さく、切るように打つ右ショートが
必ずと言っていいほど飛んできて、ヒット、攻勢、いずれも松本の圧倒的なリードで試合は進みました。

大手ジムの若手選手の中には、ジムの自主興行にばかり出て、選ばれた相手に連勝を重ねているが、
戦績ほどには強くは無い、という選手が時々います。しかし松本亮は、そういう選手とはひと味違いました。
井上尚弥のような桁外れの驚異ではなくとも、素質に恵まれ、着実に力をつけていると見えました。

久高寛之は苦闘のさなかにいました。
敵地でダウンを奪って、優勢に進めたにも関わらず負けたデンカオセーン戦に代表されるように、
タイ、フィリピン、アルゼンチンなどで苦しい闘いを強いられた経験の多い久高ですが、
この試合は、事実上違う階級の選手といえる松本と闘わねばならないという、
言ってみれば試合が始まる前からの「立場」の違いが、彼を苦しめていました。

ベテランと若手の新旧対決、という構図の試合で、彼はもう、その先を期待されることのない「旧」の立場にいる。
そして、その立場に甘んじた数多の、過去の選手たちが受け入れざるを得なかった理不尽な状況と、
松本亮の若さと力にさらされた久高寛之の姿は、彼の試合を長年に渡り、ほぼ全て見てきた者にとり、
やはり悲しいものとして映りました。


ラスト2回、久高は果敢に右で打ちかかり、松本がやや冷静さを失ってその打ち合いに応じたこともあり、
いくつかクリーンヒットをとって、場内を沸かせました。
その姿は、綺麗な形でのカウンターパンチ狙いに固執することもあった過去の彼の姿とは、まったくの別物でした。

「ベテランの意地を見せた」と、紋切り型の表現をすれば済むものなのかもしれません。
しかし私には、抜群の素質を持ちながら、いつも何かが手遅れになり、僅かに的を外し、運に恵まれなかった
久高寛之が、彼自身の過去を振り払わんと、呪いを絶ち斬ろうと、その拳を振り回しているようにも見えました。

あれほどの才能を持ち、期待もされ、でも誰もが思い描いたような栄光には、手が届かなかった。
その理由が何なのか、などと今更問うてみたところで、意味はありません。
ボクシングとは、闘うこととは、そのようにして人を、ボクサーを振り落としてゆくものです。

かつて彼を破ったボクサーが、その次の試合で、自らの先に、厳しく断を下したように。
久高寛之にも、いくつもの闘いと、勝利と敗北があり、それが積み重ねられた過酷な日々が、
そして、振り返れば幸福だったかも知れない日々が、終わりを迎える日がやってくる。
おそらくこの試合が、その終の日となるのだろう。

最終回のゴングを聞く頃、そんな風に思っていました。そんな試合でした。



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公約が実現へ/試運転で圧勝/健闘と不安/強さが見えた/どちらもあきまへん

2014-04-07 19:26:33 | 関東ボクシング


昨日の興行、全体としても豪華なものだったのですが、
メインの衝撃があまりに凄すぎて、全部飛んでしまった感さえあります。

普通「前座はきつかったけどメインが良くて全部飛んだ」とか
「メインはもひとつやったけど、前座は良かった」とか、どっちかになるものですが
前座が結構良いのに、メインがさらに輪をかけて、というのは、珍しいものです。
ということで、セミ以下の試合についても雑感を簡単に。

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セミの八重樫vsサレタ戦は、サレタの意外な健闘でした。

身体の厚みが全然違い、こりゃ勝負早いかなと思いましたが、
サレタの程よく軽い身のこなしと、強打ではないが狙いすぎずに打ってくるワンツーが
時折八重樫を脅かし、序盤はややサレタ優勢。

井上は中盤以降ボディから攻め挽回。8回、右を決めてサレタにマウスピースを吐かせ、
さあ追撃かというところで、レフェリーが止めて、マウスピースを入れてから再開。
これでリズムが切れたか、9回、失速気味だったサレタが甦ってきて、こりゃまたもつれるな、
と思った矢先の右ヒット、ダウン、ストップという流れで試合は終わりました。

試合後はロマゴンの祝福を受けたり、先日亡くなった春原記者への感謝を語ったり、
八重樫の人柄の良さが会場を覆い尽くした感じでした。
いつもどおりお子さんたちも登場。一番「出来たて」の子を抱えてリングを降りるときは
万一こけたりしたら大変やと心配でしたが無事でした。良かった(笑)

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そのローマン・ゴンサレス、セミセミ登場。
フィリピンのファン・プリシマという選手は、闘志も意欲もあり、線は細いが伸びるパンチで
果敢に闘うものの、ロマゴンの身体の軸がぶれないフォームから繰り出されるダブル、トリプルの
上下の打ち分けにさらされ、2回にダウン、3回にやや早めのストップ。
力量差は如何ともし難く、という感じでした。

実は私、直にロマゴン見るのは今回が初めてでして(^^ゞ
今更ですが改めて、なかなか見られるレベルにない完成度があり、
なおかつ、それ以上の野性味を撒き散らす、雰囲気のあるボクサーでした。

とにかく、実に安定感があり、全てのパンチが決め手になりうる角度の正確さと威力を持っている。
攻め口が正面突破のみで、以前の微妙な角度の妙味は見えなかったですが、
それはこの試合では出すまでもない要素なのかもしれません。とにかく圧倒的でした。

八重樫戦、ホントのホントにやるみたいですね。正式発表を待ちましょう。

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細野悟vs緒方勇希は、緒方の健闘が目立った印象。
前後の動きで巧みに外し、軽いが手数とヒットでまさる緒方に対し、
強打の細野は右の手応えを欲しがる感じで、どうもよろしくありません。
終盤、緒方がさすがに疲れ、細野がヒットを重ねるようになり、
最終回に倒して追撃、ストップでした。

試合自体は緒方の粘りが好試合を演出した形でしたが、細野の先行きは不安の一語です。
ここ数年、世界戦での苦闘、不運といった試合しか見る機会がないもので、
普段の国内レベルでどうなのかは不明でしたが、
立ち上がりから上記のとおり、どうもこれはいかんのでは、という感じでした。
4度目の世界挑戦までに、もう少し落ち着いた組み立ての試合を見せてもらいたい、というところです。

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第一試合の井上拓真は、宮崎亮を倒したファーラン・サックリリン・ジュニアに判定勝ち。

デビュー戦は、相手がランカーで左で、ということもあり、派手なデビューとはいきませんでした。
その次が世界ランカーですから、大丈夫かなと思っていましたが、二戦目で良さが見えました。

パワーヒッターの部類なんですが、接近戦や打ち合いになったとき、相手のガードの隙間に
肩のスナップを使って、振りの小さいカウンターを合わせたり、アゴの先端に滑らせるような
速いパンチを狙ったり、という、巧いファイターの技がいくつか見えました。
その上で、重いパンチを持っていますし、ファーランに打ち勝って、クリアな勝利でした。

すぐ世界戦、というほどの突出した鋭さはなく、兄よりも試合数は必要でしょうが、
国内レベルで徐々に力をつけていけば、将来面白い存在になると思います。
名古屋のホープ田中恒成との出世争いにも注目ですね。


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最後に、友人のブログ紹介しておきます。

昨夜はこの方と同道して観戦したので、私も同じ位置からこのような光景を何度も見ました。
このクレーンカメラ、皆さん、どう思います?
数千円とか一万円とか払って来た客の存在を、いったい何だと思ってけつかっておられるのか。
信じられないレベルの傍若無人です。

ついでに翌朝の「めざましテレビ」ってやつ。
まあ、真面目にあんなものに突っ込むだけ阿呆ですが、ボクシング自体は何も語れず、
井上に変なポーズ取らせたり、いきなりケーキ食わせたり。ホントに低脳の一語。
今、何やっても視聴率が悪くて苦しんでるらしいですが、納得です。
あれを「一般視聴者にも親しみを持ってもらう狙いの切り口」と考えているのだとしたら、
あまりに頭が悪く、勘違いが酷い。救いようが無いレベルです。

TBSの情報操作、日テレの安定した野暮ったさに苦しんでいる身としては
かつて格闘技系の番組を華々しく演出し、高視聴率を上げたフジに期待もしたんですが、
結局、どちらもあきまへんな、というのが結論です。

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ま、最後は愚痴になりましたが、リングの上に関しては文句なし。
あれこれ見られて、こうして振り返ると改めて豪勢な興行でした。

ただ、場内の入りは、メインの時でも、事前に完売だ満員だチケット無いぞ、と
あれこれ言われていたほどの満員でもなかったのが、ちょっと意外で、残念でした。
南北の席は、5割かそこらの入りでしたし、東西もけっこう空席の目立つブロックもありました。

しかし、メインの驚異的な試合展開と、劇的なフィニッシュは、そういう空白を吹き飛ばすものでした。
改めて井上尚弥は凄いな、と思った要因のひとつです。



あ、松本亮vs久高寛之の新旧対決についてのつべこべあれこれ雑感は、また後日ということで。
人が何というかは知らず、私としては、結構心に染みる試合でした(^^;)


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衝撃の圧勝!だがそれ故に、これはまだ通過点だ 井上尚弥、6戦目でWBC王座に

2014-04-07 02:19:52 | 井上尚弥


井上尚弥なら充分勝てる、と思っていました。
こわごわではありましたが、そう書きもしました。
しかし、こんな試合内容は想像してみたこともありませんでした。


右のボディストレートを突き刺した初回早々から、井上尚弥は全て先手を抑えてしまう。
判断が速い、手が速い、足も身のこなしも速い。
鋭い軌道を描き、長く伸び、次々に放たれる、殺意を込めた井上の拳に脅かされて、
アドリアン・エルナンデスは後手を踏むことすら許してもらえないままでした。

ことに、序盤3ラウンドまでは、ろくに手も出させてもらえないエルナンデスの姿に
何度、眼前の光景を疑ったか知れません。
東南アジア系の格下相手に調整試合をやっているんじゃあるまいし、
これはいったいどうなっているんだ、信じられない、あり得ない。
簡単に言うとそういうことです。

4回以降、井上がやや足を止め加減になり、それに乗じて攻めることを許されたエルナンデスですが
パンチの大半は井上の腕にバウンドし、むなしくグローブの皮の音が聞こえるばかり。
王国メキシコの強打者は、その拳をキャリア僅か6戦の日本人ボクサーに打ち込むことが出来ませんでした。

6回、エルナンデス懸命の反撃。しかしこの何度目かに見せた「意地」は、
いよいよ最後の断末魔、と見えるものであり、次に自ら後退したり、何らかの形で「決壊」があれば
勝負はそこで決するだろうと明らかにわかるものでした。
井上が放った4連打、その最後を締め括った右で倒され、
立ったものの、闘志を表せなかったエルナンデスを、誰も責めることなど出来ないでしょう。
彼は大歓声の中、地獄同然のリングから解放されました。


実際のところ、アドリアン・エルナンデスが若干不調であったとて、減量に苦しんでいたとして、
それにしたってこんなワンサイドの敗北など、起こり得ないことでした。

しかしそれは現実に起こりました。井上尚弥の圧倒的な力によって。

そういう理解が正しい試合でした。



こうして書いていて、エルナンデスほどではないにせよ、私もまた、井上尚弥に苦しめられています。
とにかく、今夜彼が見せてくれた、余りにも見事な、見事過ぎる勝利から得た衝撃を、感動を、
どのような言葉を連ねたら、十全に表現出来るというのだろう。
答えが見つからないうちに、こうしてだらだらと、上滑りの言葉を並べて、恥をさらしています。


ただ、井上尚弥の闘いぶりが余りに見事で、その勝利が素晴らしいが故に、
自分が過去に書いたことの中から、改めて思い出したこともあります。

彼が目指すべきゴールは、この試合、この勝利ではない。
井上尚弥だからこそ、世界タイトルのひとつを保持する「タイトル・ホルダー」に
なったことは、あくまで彼にとっては通過点に過ぎぬはずだ。

彼が目指すべきは、軽量級において、現役最強の比類無き存在となることであり、
現状で言えばファン・エストラーダ攻略こそが、一定の到達点と目されるべきであり、
彼や陣営が出した具志堅用高の名よりも、フライ級史上もっとも価値の高い
ミゲル・カントの14度防衛記録更新が、その壮大な夢として語られるべきではないのか、と。


プロ6戦、アマチュア81戦、キッズボクシングの試合を入れても百数十戦の二十歳に、
よく考えれば何を大層な話を押し付けているのだ、という話です。
しかし、必ずしもこう書いて、人に笑われるような話でもないと、そう思ってもいます。

井上尚弥なればこそ。
彼の余りにも大きな才能と、それを支える心身の揺るぎなさを見たからこそ。


久し振りに、これほど壮大な夢を見せてくれるボクサーに出会いました。
そのことに心から感動し、感謝を送りたいです。
井上尚弥、おめでとう、そしてありがとう。



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夢が破れたその様が、何故これほどに美しい 大場浩平、死闘に散る

2014-04-04 23:54:52 | 大場浩平



おそらく、彼のキャリアを締め括ることになるであろう、
大場浩平vsランディ・カバジェロの試合を神戸で見てきました。
以下、簡単に試合展開。

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初回、ジャブの差し合いで、カバジェロが大場と互角かそれ以上のハンドスピードを披露。
ボディに散らすパンチも力感がある。大場のジャブ、左フックを軽く食うも、
終了間際に右カウンターを合わせる。大場膝をつくダウン。

2回、大場猛反撃。左はレバーに、右はストマックに、ボディアッパーが次々と決まり、カバジェロ後退。
執拗なボディ攻撃にカバジェロ右クロスからボディ。大場懸命に食らいつく。やや大場。
3回、大場足を止めた展開で闘う。カバジェロが上下に強打を飛ばす。大場はボディ攻め。
カバジェロが有効な強打でリード。

4回、カバジェロがやや突き放しにかかる、接近戦を嫌い、くっつくとクリンチ。
大場は前に出るがややコントロールされ、ボディ当てるも単発。カバジェロ。
5回、接近戦、大場の左ダブル、コンパクトな連打が決まる。
しかしカバジェロは若さと体力を生かし攻める。手数で攻め、押し勝つ。カバジェロ。

6回、大場、ダメージと疲労ありあり。カバジェロの右アッパーでよろめく。
しかし大場くらいつき、連打で反撃。この回は一打の効果でカバジェロ。
7回、大場ロープ際でL字ガードも、カバジェロ攻め込む。
スイッチを織り交ぜ連打、右クロス、ボディ打ち。
大場右カウンター、上下に連打。カバジェロ。

8回、激しい攻防ながら、カバジェロが若さを見せる。大場はダメージと疲労ありあり。
カバジェロが前進、細かい連打で大場後方に倒れる。プッシング風に見えたがパンチによるダウン。
立った大場だが動きが止まり、再開後すぐタオル投入。カバジェロTKO勝ちとなりました。

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ランディ・カバジェロは、Youtubeの動画で見た以上に、バランスがよく、手のスピード、
反応、判断のスピード、若さと体力に秀でた、一級品の選手でした。
世界レベルの水準にある、ホンモノの世界ランカーと言える実力者でした。

おそらく、すぐに世界戦に出して、誰に挑んでも好試合が期待出来るでしょうし、
相手次第では圧倒して王座奪取を成し遂げる可能性も充分、と見えました。
世界戦以外の、普通の試合では、滅多にお目にかかれるレベルの選手ではない、
これはなかなかに有り難いものを見せてもらった、という満足さえ感じました。



そういう相手に、大場浩平は現状の自分の力を全てぶつけて、敗れました。

その現実を受け入れた上で、やはり長きに渡って、彼の天才を目にし、夢を見てきた者としては、
やはり無粋ではあっても、どうしても語っておきたいことがあります。


名古屋時代とは違い、足を止めて相手と正対した上で速いジャブを飛ばし、
相手の右は目で外し、ボディ攻撃で切り込んでいく。
中間距離から接近戦での打ち合いに全て応じ、打ち勝つことを目指して闘う。

最近の数試合をこのように闘い、いくつかの試合でその通りに勝った様に対し、
好意的な評論もいくつか目にしましたが、私はそれに対して強い違和感を感じてきました。

そして、今日の試合でも、私たちが長きに渡って見てきた大場の集大成としてこの一戦を見たとき、
多くの場面、局面で、過去の彼ならああだった、こうだった、と思うところが多くありました。

派手に足を使い、というより飛び跳ね、サイドに回ると速すぎて相手の背後に回ってしまう。
前進してくる相手を、バックステップを踏みながらジャブの連射で打ち据える。
ロープを背負って攻められたと見えた瞬間、クルリと立ち位置を入れ替え、右アッパーで倒す。
鋭い角度で相手の身体を直角に捉える、威力抜群の左右ボディアッパー。

今回の試合において、攻撃面ではこれらの武器が威力を見せた反面、
彼が本来持っていた、他のボクサーとは明らかに別物な天性、天才が見られなかった。
それもまた、事実です。

それが失われたものなのか、捨て去られたものなのかはわかりません。
言えることは、それが現在の大場浩平であるということです。



試合のさなか、場内は大場の好打に沸き立ち、劣勢には悲鳴が飛び続けていました。
両者の気迫、闘志、そして攻防の鋭さ、強さが間断なく披露される、熱く激しい闘い。
場内の入りは、これほどの好カードであってなお、少々寂しいものではありましたが、
リングの上には間違いなく灼熱の炎が燃え上がり、その熱は、観客の心に、確かに届いていました。

試合の後、大場浩平は傷ついた顔に笑みを浮かべ、四方に挨拶をしていました。
その姿は敗れてもなお清々しいものでした。

天才、天性、と軽々しく書く他人には思い知れない労苦の果てに、
得たものがあれば、失ったものもあったが、彼はその現実の中で、堂々と闘い抜いた。
遂に世界王座の夢には手が届かなかったにも関わらず、その闘う姿、
そして闘い終えた姿は、とても美しい記憶として、私の心中に残りました。


今日、大場浩平は素晴らしい試合を見せてくれました。
その事実を、改めて書き記しておきたいと思います。


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