蜻蛉日記 中卷 (131) 2016.6.14
「県ありきの所、『初瀬へ』などあれば、もろともにとて、慎む所にわたりぬ。所かへたるかひなく、午時ばかりに、にはかにののしる。『あさましや、誰かあなたの門はあけつる』など、主もおどろきさわぐに、ふとはひ入りて、日ごろ例の香盛りすゑて行ひつるも、にはかに投げちらし、数珠も間木にうち上げなど、らうがはしきに、いとぞあやしき。その日、のどかに暮して、またの日、帰る。」
◆◆地方官歴任の父のところでは、「初瀬に参詣に」といっているので、一緒にいくことにして、精進している父の邸に赴きました。場所を変えた甲斐もなく、真夜中ごろに、突然兼家がやかましく先払いをして来ました。「あきれたことだ、誰があちらの門を開けたのだ」などと、主の父が驚き騒ぐなかを、つとあの人が入ってきて、この日ごろ、いつものように香を盛って置いて勤行に使っていた物などを、ぱっと投げ散らし、数珠も間木に放りあげるなど、乱暴を働くので、まったくどうしたものかという騒ぎでした。その日、あの人はゆっくりとくつろいで過ごし、あくる日に帰って行きました。◆◆
■門はあけつる=精進中は閉門するものらしい。
■ふとはひ入りて=兼家は作者が精進している部屋に闖入して。(兼家の振る舞いは、作者がまた山籠りの準備をしているのかと誤解して、それを止めさせようとしたもの。)
■間木(まぎ)=上長押に設けた棚
■のどかにくらして=ゆっくりくつろいで(兼家は昼から来て、父親との初瀬詣でだと分って安心した。先日の鳴滝参籠がよほど身にこたえ、懲り懲りした様子が分かる)
「県ありきの所、『初瀬へ』などあれば、もろともにとて、慎む所にわたりぬ。所かへたるかひなく、午時ばかりに、にはかにののしる。『あさましや、誰かあなたの門はあけつる』など、主もおどろきさわぐに、ふとはひ入りて、日ごろ例の香盛りすゑて行ひつるも、にはかに投げちらし、数珠も間木にうち上げなど、らうがはしきに、いとぞあやしき。その日、のどかに暮して、またの日、帰る。」
◆◆地方官歴任の父のところでは、「初瀬に参詣に」といっているので、一緒にいくことにして、精進している父の邸に赴きました。場所を変えた甲斐もなく、真夜中ごろに、突然兼家がやかましく先払いをして来ました。「あきれたことだ、誰があちらの門を開けたのだ」などと、主の父が驚き騒ぐなかを、つとあの人が入ってきて、この日ごろ、いつものように香を盛って置いて勤行に使っていた物などを、ぱっと投げ散らし、数珠も間木に放りあげるなど、乱暴を働くので、まったくどうしたものかという騒ぎでした。その日、あの人はゆっくりとくつろいで過ごし、あくる日に帰って行きました。◆◆
■門はあけつる=精進中は閉門するものらしい。
■ふとはひ入りて=兼家は作者が精進している部屋に闖入して。(兼家の振る舞いは、作者がまた山籠りの準備をしているのかと誤解して、それを止めさせようとしたもの。)
■間木(まぎ)=上長押に設けた棚
■のどかにくらして=ゆっくりくつろいで(兼家は昼から来て、父親との初瀬詣でだと分って安心した。先日の鳴滝参籠がよほど身にこたえ、懲り懲りした様子が分かる)