蜻蛉日記 下巻 (140) 2016.9.4
「八日ばかりに見えたる人、『いみじう節会がちなるころにて』などあり。つとめて帰るに、しばし立ちどまりたる男どもなかより、かく書きつけて、女方の中に入れたり。
(男の歌)「下野の桶のふたらをあぢきなく影もうかばぬ鏡とぞ見る」
◆◆今年になって初めて八日になってから見えたあの人は、「たいそう節会が続くのが重なって」などと弁解しています。翌朝帰る折に、一服していた従者の中から、こんな歌を書きつけて、こちらの侍女に寄こした者がいました。
(兼家方の従者のうた)「何も入っていない桶の蓋は、情けないことに姿も映らぬ鏡だ。」(暗に酒を要求した歌)◆◆
「その蓋に、酒、くだものと入れて出だす。かはらけに女方、
(女の歌)「さし出でたるふたらを見れば身を捨ててたのむは魂の来ぬとさだめつ」
◆◆その蓋に、酒と肴とを入れて差し出した。土器(かわらけ)に書き付けた侍女の歌、
(作者方の侍女のうた)「差し出された蓋を見ると身がありません。これでは鏡ではないので魔力がなく私たちを呼び出すことは出来ませんよ。代わりにお望みの品を入れて差し上げましょう」◆◆
■女方(おんなぼう)=道綱母の侍女
「八日ばかりに見えたる人、『いみじう節会がちなるころにて』などあり。つとめて帰るに、しばし立ちどまりたる男どもなかより、かく書きつけて、女方の中に入れたり。
(男の歌)「下野の桶のふたらをあぢきなく影もうかばぬ鏡とぞ見る」
◆◆今年になって初めて八日になってから見えたあの人は、「たいそう節会が続くのが重なって」などと弁解しています。翌朝帰る折に、一服していた従者の中から、こんな歌を書きつけて、こちらの侍女に寄こした者がいました。
(兼家方の従者のうた)「何も入っていない桶の蓋は、情けないことに姿も映らぬ鏡だ。」(暗に酒を要求した歌)◆◆
「その蓋に、酒、くだものと入れて出だす。かはらけに女方、
(女の歌)「さし出でたるふたらを見れば身を捨ててたのむは魂の来ぬとさだめつ」
◆◆その蓋に、酒と肴とを入れて差し出した。土器(かわらけ)に書き付けた侍女の歌、
(作者方の侍女のうた)「差し出された蓋を見ると身がありません。これでは鏡ではないので魔力がなく私たちを呼び出すことは出来ませんよ。代わりにお望みの品を入れて差し上げましょう」◆◆
■女方(おんなぼう)=道綱母の侍女