永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(104)

2008年07月12日 | Weblog
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【明石】の巻  その(16)

入道は、
 いつかは御勅許は当然なことと思っていましたものの、この知らせに胸の塞がる思いでした。が、源氏の君がお栄えになることは、いっそう自分の思いが叶うことだと、すぐに思い直します。

明石の御方は、
 この頃は、源氏の君が一夜なりとも欠かさずお出でになって、睦まじく語らい合っての日々をおくっておりました。この六月ごろから、つわりのようです。

お供の者たちは、
 都からのお迎えの人々が到着して、それぞれが帰京の喜びににぎやかです。源氏の君と明石の御方との事情を知っている者は、はじめはそっとお通いの程度であったのに、別れ際になってあんなに熱心になられては、女君の嘆きの種になるのに、と、
「あなにく、例の御癖ぞ」
――まあいやだこと、また例のお癖がはじまった――

 あちこちで、ひそひそと肘を突き合って、いまいましがっています。良清が取り持ったご縁のことも、なにやかやと話していますのを、源氏は穏やかならず聞かれたようです。

 季節は秋の最中なのでした。

 御出立は明後日あたりという日の、そう夜更けでもない時刻に、源氏は岡辺へお出かけになります。

「さやかにもまだ見給はぬ容貌など、いとよしよししう気高きさまして、めざましうもありけるかな、と見捨て難く口惜しう思さる。さるべきさまにして迎へむ、と思しなりぬ。さやうにぞ語らひ慰め給ふ」
――まだはっきりとは明石の御方の容貌をごらんになっていませんでしたが、大層深みがあって気高い様子の、目が覚める程の方よ、と、見捨てにくく残念にお思いになります。きっと然るべく計らって、都に迎え取ろうと決心なさいます。そのことあのことをお話になって、嘆く女君を慰めておいでです。

源氏は
「さらば、形見にも忍ぶばかりの一ことをだに」一言(ひとこと)と琴をかけて、
――せめて、記念に思い出にできるほどの琴の一曲を聴かせて欲しい――

 近くにおりました入道は泣きながら、琴を御簾に入れます。明石の御方の琴の音は、実に上手で気品があり、当代随一と存じ上げている藤壺の御手を思い出させる程の、この上もない琴の音でありました。(このような折りにも藤壺を恋しく思い出されるのです)源氏は「また、合奏するまでの形見に」と琴を渡されます。

明石の御方は
「ただ別れむほどのわりなさを思ひ咽せたるも、いと道理なり」
――(将来の約束を聞かされても)ただ、今の別れ際の悲しさを思ってむせび泣くのも、もっともなことですよね――(作者のことば)

ではまた。

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