専門クリニックが勧める自助会の宣伝コピーではありませんが、ミーティングには見習うべき実用的ノウハウを学べる場という側面があります。今回はミーティングがもたらす実用的な御利益の話をします。
実用的な話といえば、たとえば以下のような再飲酒(SLIP:Sobriety Loses Its Priority)に至った経緯(きっかけ)とその後の対処の仕方などは、お手本とすべき典型的な体験談だと思います。
● ミーティングから足が遠のいてつい気が緩み、無意識の内に
SLIP していたこと
● SLIP しても、連続飲酒状態になるまで結構な期間(2週間~
3ヵ月)がかかる場合もあること
● 何か変で(SLIP しそうで)危ういと察したら、その心境を
(ミーティングなどで)思い切って声に出して吐露すべきこと
これらは体験者にしか分からない苦い思い出そのもので、心しておくべき貴重な戒めです。
前回述べたように、自助会 Alcoholics Anonymous(AA )のルールの一つに “言いっぱなし 聞きっぱなし” があります。これはどんな発言があっても批評や批判は御法度という意味です。あるとき一風変わった私の発言に思わぬ助っ人が現れたことがありました。AAに定期的に出席し始めて8ヵ月目頃(断酒歴13ヵ月)のことです。
そのときのテーマが “奇蹟” だったので、私は手を挙げ、思い切って私見を話してみました。“奇蹟” というテーマは、AAの言う “ハイヤーパワー(自分を越えた大きな力 / 神)” を念頭においたものであることは明らかでした。
「私は “奇蹟” など信じません。AAの『回復のプログラム』は科学的再現性に裏打ちされたものと考えています。『回復のプログラム』の12のステップを読んでみると、書いてあることはプロトコール(実験計画書)と、その通りに100% 実行した場合の結果の記述にしか見えないのです。AAは科学的だからこそ、再現性よく回復者を輩出してきたのだと考えています。」
臆せずこのように持論を展開したのですが、すると直後にあるベテランメンバーからこんな発言があったのです。
「回復の12のステップを(英文で)読んでみると、全部過去形で書いてあり、経験譚であることに気付いた。ならばAAを信じてみようという気になった。」
頼りない記憶ながら、こんな趣旨だったと思います。これには心の中で思わず喝采を叫んだものです。
おそらくベテランメンバーの頭に、原文テキストに当った頃の記憶が蘇ったのです。せいぜい生意気な初心者の珍説と見做され、黙殺されるのが関の山と覚悟していましたが、私の話でその頃の記憶が刺激され、すかさず賛同してくれたのだと思います。「飲まない生き方を探し出すため、難解な原文テキストに当ってまで確かめているメンバーがいる」、こんな誠実な姿に触れることができ、心強さと頼もしさを覚えました。
次はテーマが “感謝” だったときの話です。AA 参加歴1年5ヵ月(断酒歴1年10ヵ月)の頃だったと思います。話が自分に向けられでもしたら、不用意な言葉をすぐさま発してしまい、それがどうにもピント外れと思うことがよくありました。想起障害のせいにしていましたが、咄嗟のことだと的確な言葉が出て来ないのです。そんなときにあるベテランメンバーが語ってくれた言葉は渡りに船で願ってもないものでした。
「AAのミーティングに参加したお蔭で、一歩下がって聞く耳を持つことと、聞き流す忍耐を学んだ。言い放し、聞きっ放しが好い影響を与えてくれたのだと思う。これを実践したことでAAの言うhumility(謙遜)が体得できたと考えている。」
私は “一歩下がって” に飛びつきました。早速この言葉を鑑とし、“一息ついて” も付け加え “一歩下がって 一息ついて” を発言する際のモットーとしてみました。
ところが実際にやってみると、どうも上手くいかなかったので、今では “一息ついて 一歩下がって” と順番を逆にしています。この方が無理がなく、より実戦向きだと分かったのです。もちろん “聞き流す忍耐” にも新鮮な印象を受けたのですが、こちらは場数を踏むしかあるまいと半分聞き流していました。
“かがみ” に関連してもう一つ。鏡は自分の身なりを正す身繕いに必須なものですが、“仲間(=AAのメンバー)は生きている鏡” と譬えたベテランメンバーがいました。“仲間” がテーマだったときの話です。
かつては自分と異なる意見を目の前で語られでもしたら、自分への批判だと思い込み、つい身構えてしまうのが普通でした。ミーティングでも自分と正反対の考え方や生き様を聞かされる場合がときにあります。さすがに腹が立ち不愉快にもなるのですが、その場で反論することは御法度です。じっと聞いているしかありません。ところが6秒(?)も経つと、不思議なことにその感情が和らいできます。その内、自分の性格上の欠点や至らなさに思い当るようにもなるのです。
もちろんミーティングでは、鑑として見習うべき話の方が圧倒的に多数派です。ときには聞いていて自分の考えの歪みに気づかされ、これは正さなければと反省しきりの話もあります。メンバーの語る生き様は、“他人の振り見て我が身を直せ” そのもので、良いにつけ悪いにつけ立派な鏡なのです。“仲間は生きている鏡” はまさに至言だと思いました。
ミーティング前のメンバー同士の雑談も有益なヒントが得られる場です。何気なしに聞いていた折に、ふと小耳にはさんだ話から “空白の時間” を逸らす手がかりを学べたこともありました。手持無沙汰になると堪え切れなくなり、イライラが昂じてつい酒に手を伸ばしそうになるのが “空白の時間” です。この一過性の情動不安へどう対処すべきか暗示してくれました。
「(アルコール依存症者にとって)断酒を始めて間もない頃に共通する悩みは、時間とうまく折り合いがつけられないこと。単純だが原因はこれに尽きる。」
恐らく初心者だった私に聞こえるよう、偶然を装って話してくれたのだと思います。専門クリニックの休診日など何も日課がない日には、再飲酒の影に怯えビクビクしていた私です。これは福音でした。
滔々と流れる時間には土台抗えません。うまい折り合いのつけ方とは、時計の示す時刻に沿って日々の生活リズムを自律的に刻むことと気づいたのです。一日々々の行動スケジュール(時間割り)を自分できちんと決め、1週間単位で時間割り通りに自律した日常生活を送るということです。
毎日通院の効果がテキメンだったことからうすうす気づいていたのですが、これで腹を括ることができました。同時に生活環境全般にも思いが拡がり、秩序を保つ大切さにも気づきました。それで “秩序とリズム” を生活のモットーにしたのです。このことがあってからというもの、開始時刻よりも30分以上前にミーティング会場に行くようになったのは言うまでもありません。
とかく偏った考えに陥りがちだった飲酒時代と縁を切り、飲まないで生きる新しい人生を続けるためとして、ミーティングを考え方の鍛錬の場と位置付けたメンバーがいました。「(ミーティングは)“新しい人生” の道場」、仲間の様々な考え方を稽古台に見立てた彼の心意気が見て取れました。また、「仲間の体験談は “経験した事実” であるところが貴い」と核心を衝いたメンバーがいました。ミーティングで語られる話は経験に裏打ちされた有用な情報であり、他では得難い貴重な教訓なのです。
これらミーティングで得られた言葉は、記憶が覚束ないながら今でも心に残っています。体験した人でなければ語れない話が、息遣いまで見えるライブ(生)で聴けるのがミーティングです。その場にいた者にしか味わえない醍醐味なのです。
***********************************************************************************
AAに参加したての頃は、肝腎のテーマの意味が今一つ分からず、頭の中がグルグル空回りしていたものです。しばらくすると、メンバーの言葉に触発されて頭がパッと閃くようになれました。埋もれていた記憶が蘇った瞬間でもありますし、角度を変えたモノの見方のお蔭でモヤモヤが晴れた “気づき” の瞬間でもありました。
「自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場」(下)に続きます。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ランキングに参加中です。是非、下をクリックして順位アップに応援お願いします!
クリックしますと、その日の順位が表示されます。
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ
↓ ↓
実用的な話といえば、たとえば以下のような再飲酒(SLIP:Sobriety Loses Its Priority)に至った経緯(きっかけ)とその後の対処の仕方などは、お手本とすべき典型的な体験談だと思います。
● ミーティングから足が遠のいてつい気が緩み、無意識の内に
SLIP していたこと
● SLIP しても、連続飲酒状態になるまで結構な期間(2週間~
3ヵ月)がかかる場合もあること
● 何か変で(SLIP しそうで)危ういと察したら、その心境を
(ミーティングなどで)思い切って声に出して吐露すべきこと
これらは体験者にしか分からない苦い思い出そのもので、心しておくべき貴重な戒めです。
前回述べたように、自助会 Alcoholics Anonymous(AA )のルールの一つに “言いっぱなし 聞きっぱなし” があります。これはどんな発言があっても批評や批判は御法度という意味です。あるとき一風変わった私の発言に思わぬ助っ人が現れたことがありました。AAに定期的に出席し始めて8ヵ月目頃(断酒歴13ヵ月)のことです。
そのときのテーマが “奇蹟” だったので、私は手を挙げ、思い切って私見を話してみました。“奇蹟” というテーマは、AAの言う “ハイヤーパワー(自分を越えた大きな力 / 神)” を念頭においたものであることは明らかでした。
「私は “奇蹟” など信じません。AAの『回復のプログラム』は科学的再現性に裏打ちされたものと考えています。『回復のプログラム』の12のステップを読んでみると、書いてあることはプロトコール(実験計画書)と、その通りに100% 実行した場合の結果の記述にしか見えないのです。AAは科学的だからこそ、再現性よく回復者を輩出してきたのだと考えています。」
臆せずこのように持論を展開したのですが、すると直後にあるベテランメンバーからこんな発言があったのです。
「回復の12のステップを(英文で)読んでみると、全部過去形で書いてあり、経験譚であることに気付いた。ならばAAを信じてみようという気になった。」
頼りない記憶ながら、こんな趣旨だったと思います。これには心の中で思わず喝采を叫んだものです。
おそらくベテランメンバーの頭に、原文テキストに当った頃の記憶が蘇ったのです。せいぜい生意気な初心者の珍説と見做され、黙殺されるのが関の山と覚悟していましたが、私の話でその頃の記憶が刺激され、すかさず賛同してくれたのだと思います。「飲まない生き方を探し出すため、難解な原文テキストに当ってまで確かめているメンバーがいる」、こんな誠実な姿に触れることができ、心強さと頼もしさを覚えました。
次はテーマが “感謝” だったときの話です。AA 参加歴1年5ヵ月(断酒歴1年10ヵ月)の頃だったと思います。話が自分に向けられでもしたら、不用意な言葉をすぐさま発してしまい、それがどうにもピント外れと思うことがよくありました。想起障害のせいにしていましたが、咄嗟のことだと的確な言葉が出て来ないのです。そんなときにあるベテランメンバーが語ってくれた言葉は渡りに船で願ってもないものでした。
「AAのミーティングに参加したお蔭で、一歩下がって聞く耳を持つことと、聞き流す忍耐を学んだ。言い放し、聞きっ放しが好い影響を与えてくれたのだと思う。これを実践したことでAAの言うhumility(謙遜)が体得できたと考えている。」
私は “一歩下がって” に飛びつきました。早速この言葉を鑑とし、“一息ついて” も付け加え “一歩下がって 一息ついて” を発言する際のモットーとしてみました。
ところが実際にやってみると、どうも上手くいかなかったので、今では “一息ついて 一歩下がって” と順番を逆にしています。この方が無理がなく、より実戦向きだと分かったのです。もちろん “聞き流す忍耐” にも新鮮な印象を受けたのですが、こちらは場数を踏むしかあるまいと半分聞き流していました。
“かがみ” に関連してもう一つ。鏡は自分の身なりを正す身繕いに必須なものですが、“仲間(=AAのメンバー)は生きている鏡” と譬えたベテランメンバーがいました。“仲間” がテーマだったときの話です。
かつては自分と異なる意見を目の前で語られでもしたら、自分への批判だと思い込み、つい身構えてしまうのが普通でした。ミーティングでも自分と正反対の考え方や生き様を聞かされる場合がときにあります。さすがに腹が立ち不愉快にもなるのですが、その場で反論することは御法度です。じっと聞いているしかありません。ところが6秒(?)も経つと、不思議なことにその感情が和らいできます。その内、自分の性格上の欠点や至らなさに思い当るようにもなるのです。
もちろんミーティングでは、鑑として見習うべき話の方が圧倒的に多数派です。ときには聞いていて自分の考えの歪みに気づかされ、これは正さなければと反省しきりの話もあります。メンバーの語る生き様は、“他人の振り見て我が身を直せ” そのもので、良いにつけ悪いにつけ立派な鏡なのです。“仲間は生きている鏡” はまさに至言だと思いました。
ミーティング前のメンバー同士の雑談も有益なヒントが得られる場です。何気なしに聞いていた折に、ふと小耳にはさんだ話から “空白の時間” を逸らす手がかりを学べたこともありました。手持無沙汰になると堪え切れなくなり、イライラが昂じてつい酒に手を伸ばしそうになるのが “空白の時間” です。この一過性の情動不安へどう対処すべきか暗示してくれました。
「(アルコール依存症者にとって)断酒を始めて間もない頃に共通する悩みは、時間とうまく折り合いがつけられないこと。単純だが原因はこれに尽きる。」
恐らく初心者だった私に聞こえるよう、偶然を装って話してくれたのだと思います。専門クリニックの休診日など何も日課がない日には、再飲酒の影に怯えビクビクしていた私です。これは福音でした。
滔々と流れる時間には土台抗えません。うまい折り合いのつけ方とは、時計の示す時刻に沿って日々の生活リズムを自律的に刻むことと気づいたのです。一日々々の行動スケジュール(時間割り)を自分できちんと決め、1週間単位で時間割り通りに自律した日常生活を送るということです。
毎日通院の効果がテキメンだったことからうすうす気づいていたのですが、これで腹を括ることができました。同時に生活環境全般にも思いが拡がり、秩序を保つ大切さにも気づきました。それで “秩序とリズム” を生活のモットーにしたのです。このことがあってからというもの、開始時刻よりも30分以上前にミーティング会場に行くようになったのは言うまでもありません。
とかく偏った考えに陥りがちだった飲酒時代と縁を切り、飲まないで生きる新しい人生を続けるためとして、ミーティングを考え方の鍛錬の場と位置付けたメンバーがいました。「(ミーティングは)“新しい人生” の道場」、仲間の様々な考え方を稽古台に見立てた彼の心意気が見て取れました。また、「仲間の体験談は “経験した事実” であるところが貴い」と核心を衝いたメンバーがいました。ミーティングで語られる話は経験に裏打ちされた有用な情報であり、他では得難い貴重な教訓なのです。
これらミーティングで得られた言葉は、記憶が覚束ないながら今でも心に残っています。体験した人でなければ語れない話が、息遣いまで見えるライブ(生)で聴けるのがミーティングです。その場にいた者にしか味わえない醍醐味なのです。
***********************************************************************************
AAに参加したての頃は、肝腎のテーマの意味が今一つ分からず、頭の中がグルグル空回りしていたものです。しばらくすると、メンバーの言葉に触発されて頭がパッと閃くようになれました。埋もれていた記憶が蘇った瞬間でもありますし、角度を変えたモノの見方のお蔭でモヤモヤが晴れた “気づき” の瞬間でもありました。
「自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場」(下)に続きます。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ランキングに参加中です。是非、下をクリックして順位アップに応援お願いします!
クリックしますと、その日の順位が表示されます。
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ
↓ ↓