ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

アルコール依存症へ辿った道筋(その24)えっ、新GCPで治験追加?

2015-04-10 20:33:07 | 自分史
 世界標準の新GCPの法制化の議論が確定し、’97年3月に省令として発出されました。日米欧の三極で協議(ICH)して決めたものとなっていますが、実質的には米国主導で出来上がったグローバル・スタンダード(ICH-GCP)です。
 ICH-GCPでは、ひとつの事柄(例えば治験責任医師)について立場を変えた複数の視点から繰り返し何度でも記述するという体裁が採られていて、治験実施体系が執拗なまでに徹底した形で規定されています。新GCPはこのICH-GCPを法律文にしたものです。
 法律文を理解しやすくするため中央薬事審議会が答申GCPというものを発出しています。理解しやすくした翻訳文の答申GCPであっても、アングロサクソン文化特有の記述構成のままで、日本文化の特色でもあるさらりと淡泊で程よい曖昧さは全くありません。新GCPからみると旧GCPは大甘で無邪気で幼稚なものでした。


 会社でも新GCP施行少し前から臨床開発業務の分業化が具体化されました。

 モデルとなったのは米国で臨床開発を担っていた子会社のシステムです。従来一人で何役もこなしていた臨床開発業務を細分化し、新GCPに則した専門職種として独立させました。分業化された職種ごとに「何時・誰が・何を・どうする」を規定する標準業務手順書(SOP)作りもしました。こうして責任を明確に分担させる体制を整えたのです。

 新しい職種、メディカル・ライティング(MW)の部署も新設されました。治験実施計画書や、治験完了後に義務付けられた治験総括報告書などの必須文書の記述作成を専門とする著述家(?)集団です。職種代えで私がMWを取り仕切ることになったのもこの時期です。臨床開発の前線部隊から後方支援部隊へ、私としては初めての異動となりました。

 後方支援部隊というのは私たちのMW室の他、統計解析担当の生物統計室(BS)、治験データ(CRF等)管理のデータ・マネジメント室(DM)、文書の和文英訳担当の科学文書室、それと治験薬管理室のことです。これらの業種は開発品目を問わず共通する臨床開発業務で、新GCP施行に伴いこれらの業務の受託を専門とする臨床開発受託業者(CRO)も現れ始めた時代でした。

 この組織改革を実行したのは異動で着任した常務のYa氏と役員待遇のYoさんでした。

 常務のYa氏については研究所長から臨床開発部門トップへの横滑り人事なのは明らかでした。自社開発治療薬1号品と2号品両方の創薬リーダーを務めた人物で、アクが強いものの海外留学経験もあり実績は誰もが認めるところでした。

 一方のYoさんは私の3年先輩でしたが、海外勤務経験もあり社長のお気に入りの一人でした。当初は常務のYa氏の補佐役だろうぐらいに思われていました。ただ、この二人の仲が悪いことは皆知っていました。それでお互いをお目付け役にしようとする社長の思惑かと勘繰ったものです。

 もう一人、しばらくして私たちの直属の上司になる定年間近のKa氏も異動してきました。

 この組織改革を機に異動で離れたのが感情的に色々あったN先輩と臨床開発部門のトップ・専務のK氏です。

 N先輩は医薬営業部門の販促戦略責任者として東京へ転勤となりました。会社を揺るがした市販後使用全例調査データ捏造事件の騒動からすでに5年半が経っていました。特別専任プロジェクトを組んだ市販後使用全例調査は依然として続いていました。「絶対に諦めるな」という社長の信念と、使用患者が細々ながら続いていたことで、承認取り消しを申請できずにいたのです。このことがあってか、当時N先輩の歩く傲慢の影が大分薄れてきていました。

 専務のK氏の常任監査役への降格も決まり、N先輩の異動から少し経っての異動となりました。この10年来因縁深い上司だった二人が更迭されたのです。

 何のことはない、臨床開発業務の分業化は臨床開発部門の一大組織改造案を具体化するその第一歩だったのです。

 実は、Yoさんの進言を入れて臨床開発部門を前線部隊と後方支援部隊に大きく二つに分けることが決まっていたようなのです。Yoさんの思惑通りになり、後方支援部隊トップへのレールが敷かれたものと思います。

 Yoさんが実際に後方支援部隊のトップとなったのはそれから約1年後のことになります。CRO業者のように、他社の業務をこの後方支援部隊に請け負わせようと、まさか本気でYoさんが目論んでいるとは思いもしませんでした。

 国立大学を舞台としたデータ捏造・改竄事件の横槍で課せられた旧GCP信頼性調査結果報告書の提出と同時期に、新薬調査会の2回目の指示事項回答も提出しました。

 この2回目の指示事項回答についてのヒアリングを受けた際、新Ca拮抗薬Pが水に難溶であることから、1日1回服用への懸念が当局から出されたというメモが手帳に残っています。薬の物性からすると長時間にわたって効力が持続するはずがないというニュアンスだったと思います。

 「えっ、今頃になって何を言い出すの・・・」とムッとしたことだけしか覚えていません。呆れるほど淡泊な質問をしただけで単細胞そのままの反応です。
 「どういうことですか?」
 「まぁ、別に・・・今言った通りのことです。」

 用法の妥当性に関する見過ごせない疑念のはずです。当然、この時すかさずその真意をもっと確かめておけば良かったのです。今になって思えば“逃がした魚は大きい”、結局のところ後の祭りとなりました。いつものことながら肝腎のときになると、決まって意識がポッと飛んでしまい、念押しをコロッと忘れてしまうのです。

 この回答提出から2ヵ月後、3回目の新薬調査会指示事項が出て来ました。

 3回目の指示事項のハイライトはグレープフルーツ・ジュースとの飲み合わせ(交互作用)の問題についてでした。これには基礎研究データで回答したのですが、2ヵ月後の4回目の新薬調査会指示事項では遂に、交互作用について治験を実施し、ヒトのデータを提出せよとの要求になりました。

 当時、新Ca拮抗薬Pと同系統の降圧薬はグレープフルーツ・ジュースと一緒に飲むと、作用が強く出ると知られるようになっていました。今ではグレープフルーツ・ジュースの薬剤交互作用としてよく知られています。ホテルでの朝食時に、降圧薬をグレープフルーツ・ジュースで飲んだところ、頭痛が酷かったという報告が発端でした。薬物代謝酵素の研究が進んだことによる時代が要請した指示事項です。

 「えっ、またぁ治験?新GCPでやるのは面倒なのに・・・本当に面倒臭い」、これが本音でした。新たに追加治験を実施しなければならなくなった、この指示事項が禁酒を破らせた引き金でした。

 会社として初めての新GCPに則した治験です。臨床開発部門の最優先課題として治験実施計画書の作成から治験総括報告書の作成終了まで、すべて新GCP遵守で実施することになりました。私は新人MWとして、PL(治験責任者:以前のPM)代行も兼ねて会社初の新GCP治験の立ち上げに取り組みました。

 新GCPでは治験実施計画書の見出しの付け方を始めとして、その構成や盛込むべき内容まで詳細に規定しています。その規定を具体化したお手本がない状況では、いまいちピンと来ませんでした。

 同じ内容を治験実施計画書のあっちの章にもこっち章にも重複記載してしまう破目になりました。これに懲りてテンプレート(雛形)作りが新部署の初仕事になったのですが・・・。関係する全部署が集まって何度も試行錯誤の議論を重ね、治験実施計画書の最終案作成には2ヵ月ほどかかりました。従前なら2週間でも十分お釣りが来るところです。臨床開発部門挙げて最優先で進めたのですが、結局ナンダカンダで指示事項回答提出まで5ヵ月を要しました。

 これが真酷劇(?)の序章でした。後に大問題となった1日1回服用の妥当性を照会してきた指示事項は、この4回目の新薬調査会審議ではまだ出て来ていません。この時期、当局内では大きな変化が進行中だったのです。


 飲み屋でソファに座っているときに、初めて突然意識を失って床に崩れ落ちたのはこの頃のことと思います。

 追加治験の実施が決まってしまい、その憂さ晴らしにハシゴ酒の末に行きつけのスナックに入ったときでした。再飲酒した勢いで、かつて部下だったM君が一緒でした。M君がトイレに立ったまでは覚えていますが、気が付くと床に倒れていたのです。怪我はなく、辺りにグラスの破片が散らばっていました。私としてはチョット飲み過ぎの失態だったぐらいの感覚でした。

 これが定年退職後の連続飲酒で何度も経験することになる一過性の失神・顔面転倒の最初の出来事でした。請求書の額は高かったそうです。M君が会社の交際費で落としてくれました。


アルコール依存症へ辿った道筋(その25)につづく



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1 コメント

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読者の皆様へ (ヒゲジイ)
2015-04-10 20:57:11
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
治験の実施について細かく規定した法律GCPは日本で初めてのものでした。
新しい法律に沿うよう悪戦苦闘したことが伝わりましたでしょうか?18年前の当時は初めての経験ばかりでした。
現在、治験は患者さんが安心・安全に参加できるシステムになっています。
ありがとうございました。
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