耐震偽装の問題は,建築主の依頼を受けた建築士が構造計画書に関し偽装し,それを知らずに建築主が建築確認を建築主事に求める,という構造になっている。本件は「建築主」が建築主事(都道府県)を相手取り国家賠償請求をしたという事案である。
国賠違法となるためには,①本件処分が客観的で違法であること(本件は構造耐力の基準を充たしていないという建築基準法20条違反の法令違反が客観的にはある)に加え,②職務行為基準説に従った職務上の法的義務に違反していること,更にその職務上の法的義務が被害者(原告)との関係で負担するものであること,という主観的違法の有無が問題となるわけである。
本件では,原告が建築主か第三者(周辺住民など)に係らず,職務上の注意義務の内容程度が変らないとする田原補足意見とそうではないとする寺田・大橋補則意見が真っ向から対立している。
建築確認制度の目的には,建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを通じて得られる個別の国民の利益の保護が含まれており,建築主の利益の保護もこれに含まれているといえるのであって,建築士の設計に係る建築物の計画について確認をする建築主事は,その申請をする建築主との関係でも,違法な建築物の出現を防止すべく一定の職務上の法的義務を負うものと解するのが相当である。
建築主事による当該計画に係る建築確認は,例えば,当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに,申請書類の記載事項における誤りが明らかで,当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど,建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。