民法判例まとめ38

2016-07-08 12:40:43 | 司法試験関連

動産売買先取特権の物上代位(2)一般債権者の差押え

304条1項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によって、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである。

最判昭和60年7月19日 百選82事件

・買主が有する転売代金債権上に物上代位権を行使するためには、①「その払い渡しまたは引渡しの前に」、②「差押えをしなければならない」とされている。①については、「いつまで行使できるのか」、②については、「どのようにして行使するのか」、が問題となる。本判決は①に関する判断をしたものである。

・本判決は理由付けとして、第三債務者の保護と目的債権の譲受人等第三者の保護を挙げている(平成10年1月30日は第三債務者の保護しかあげていないのと異なる)

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論点抽出能力

2016-07-08 12:39:41 | 司法試験関連

問題文の事実から、「なんとなくあれが問題になりそうだ」と気が付く能力と、「厳密な意味で問題となることが分かる」能力では実力に大きな違いがあります。そんな話も16日のロードマップ講義では具体例を用いながらお話ししようと思います。

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民法判例まとめ37

2016-07-07 11:38:04 | 司法試験関連

動産売買先取特権の物上代位(1)

①  動産の買主がこれを他に転売することによって取得した売買代金債権は、当該動産に代わるものとして動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となる(304条)。

②  これに対し、動産の買主がこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた材料や労力等に対する対価をすべて包含するものであるから、当然にはその一部が右動産の転売による代金債権に相当するものということはできない。

③  したがって、請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができると解するのが相当である。

最決平成10年12月18日 百選81事件 

・「請負」は304条「売却」には必ずしもあたらない。そもそも、請負代金には当該原材料費や労力等に対する全対価が含まれているため、請負代金、動産売買先取特権に基づく物上代位が肯定されるかどうか問題となる。

・否定説、肯定説、折衷説が対立する。

  折衷説

  → 動産同一性説

      売買目的物(動産)と加工された同三都の同一性に着目する見解。外観上の相違、加工に要する労力の程度、加工物の代金債権額にしめる加工代金額の割合等を総合的に観察して動産が加工の結果、社会通念上価値の異なる物に転化したことにより当初の売買契約の目的物とみなし得なくなったか否かを決し、両者の価値的同一性が肯定される場合に、物上代位権の行使を肯定する見解

  → 本決定

目的物の外観的同一性を基準とせず、請負代金債権の全部または一部が「転売」代金債権と同視できるかどうかを基準とする考え。本決定は、請負代金債権における動産価格の割合請負債務の内容(単純作業的なものかテクニカルなものか)から、両者を混同出来るか否かを判断していると言える。

  → 肯定説は、物上代位の本質を「価値」の転化と見ており、価値の転化がある以上、その代償物の性質を問わないと考える。しかし、物上代位は、「賃貸」を除外すれば、目的物が滅失したときに、担保権が消滅する反面、設定者は代償物を「利得」することがあるため、その場合の不公平さを是正する制度である。したがって304条「売却」代金観念から離れた解釈は妥当とは言えない。

  → 動産同一性説は、物上代位の問題が、新たに発生した請負代金債権が動産の売却代金債権と「代償関係」にあるかどうかの問題だという点を看過している。動産の同一性如何は重要ではない。

・請負は「純粋な請負的」なものから、製作物供給契約のように「売買契約的な請負」まで千差万別である。しかしながら、請負における請負代金債権には、当該動産の対価のみならず、労力や他の原材料に対する対価も含まれているので、原則転売の場合における「転売代金債権」と同視はできないであろう。しかし、例外的に転売代金債権と実質的に同視できる場合がある、と考えるべきであろう。

・本件では、請負代金債権が2080万円、請負内容は、ターボコンプレッサーの設置であり、BC間において、2080万円のうち1740万円が機械そのもの価格分とされていた。ターボコンプレッサーそのものはBがAから1775万円で購入していた。

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イスタンブールのテロ事件

2016-07-06 16:31:18 | 雑感

私、ダイビングが趣味なので、実は紅海に今年も行く予定でした。出発日は6月29日。行き帰り共に、成田→イスタンブール、イスタンブール→カイロ、カイロ→シャルムエルシェイクという行程でした。

しかーし。29日当日、起きてすぐ文字通り飛び込んできた情報が「イスタンブールの空港で自爆テロ、死傷者多数」というニュース。「まじっすか」が最初のリアクション。当然その日の成田発は欠航に。30・31日はターキッシュとエジプトエアー、エクスペディアとの連絡で忙殺されました。結果、色々あって今回は断念しましたが。

実は元々は28日の便でイスタンブールへ向かうつもりでした。29日に切り替えたのは、いつもあるはずの移動時間の短い便どうしても見つからず、初めて追加料金を払って移動時間の短い便にしたのですが、それが29日しかなかったからでした。しかも最後の1枠でした。

追加料金高いなと思いつつ、移動時間が短いにこしたことはないので(それでも片道21時間ほどですが)、最後の1枠ということもあり、衝動的に29日にしたのでした。もし当初の予定通りだったら、テロの行われた正にその時間帯に、その場所に居合わせるところでした。アタテリュク空港は2度使ったことがあるので、どのあたりで爆破テロがあったかはよくわかります。すぐ近くにいた可能性は高かったと言えます。

危なかったなぁと。「運が悪ければ死んでいた」の具体性というかリアリティが今回は本当に高かったと後から気がつきました。今回は何故か「行かせようとしない」流れ的なものが渡航前・便の変更を試みたときなどにあり、虫の知らせ的なものが強かったのかな、なんて思っています。

まぁ、死んだ可能性はそこまで高くないとしても、怪我の可能性、便の変更、ホテルの手配などエジプト人、トルコ人と現地で色々交渉しなきゃいけなかった可能性を考えると、離陸直前の事故で本当についていたと思います。事故直後の空港に居合わせたエジプト在住の方のブログによると、大混乱は想像以上のものだったようです。

何事も紙一重だなと感じました。まぁホテル代は返ってきませんでしたが、飛行機代は交渉して全額返金になりました。無事が一番の成果でしょうか。そんなことがありました。

Comments (3)
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民法判例まとめ36

2016-07-05 12:36:47 | 司法試験関連

民法196条 「有益費」?

 → 「利得の押し付け」は避けなければならない。

単に物の価値が増加したと言うだけでは十分ではなく,それが行われなければその物の社会状況に応じた通常の利用にも支障を来たしかねないと認められることを要する。物の通常の利用に関係の無い価値増加や,通常の利用に役立つにしても,あれば便利だという程度の改良等のための費用は有益費に含まれない。物が通常の利用のために備えているべき状態を欠くに至った場合において,その状態を確保するために物の原状維持・回復に留まらない措置が講じられたときにその費用が「有益費」となる。

 → 196条2項の意味は,償還義務の対象を有益性が認められる増加に限った点にある。物をどのような状態にしておくかは所有者が決めることである。占有者が勝手にした改良等によって物の価値が増加したとしても,その増加は所有者にとって「押し付けられた利得」になるため,所有者保護の必要があるという考慮に基づく。

 → 占有者が投下した費用によって占有物の価格が返還時に増加しているような場合には,703条・704条の要件も充足される。そこで,占有者がこれらの規定によって利得の返還を回復者に請求できるのかが問題になるが,否定すべきである。回復者の償還義務を有益性の認められる場合に限定した196条2項の趣旨が没却されてしまうからである。

悪意占有者と他主占有者は,他人の物をそれと知りながら占有する者である(当初から適法な占有権原が無い者と,当初は適法な占有権限はあった者がいる)。善意の自主占有者は,他人の物とは知らないが,適法な原因に基づかずに他人の物を占有する者である。よって,これらの占有者を回復者との関係で賃借人よりも厚遇する理由は無い。

そこで以下のように整理すべきである。

回復者は,占有者が目的物に加えた変更の結果の除去を求める事ができる。但し,除去が不可能または著しく困難なとき,または変更が「有益」と認められる時は,この限りではない。回復者は結果の除去を求めることができない場合には,その変更が「有益」であるときは,196条2項により有益費償還義務を負うが,「有益」と認められない時は,結果取得の対価(償金)を支払う必要は無い

有益性」の判断は,物の使用収益を有した占有者については,その使用収益権の実現のために物が通常備えているべき状態を確保するのに必要な措置であるかどうかが基準になるのに対し,使用収益権を有しなかった占有者については,その物の通常の利用のために物が備えているべき,状態を確保するのに必要な措置であるかどうかが基準になる。ただ,善意占有者は,権原に応じた使用収益権があるものと信じており,保護の必要がある。この権原が回復者との間の法律行為に基づくものであり,その法律行為の無効・取消し・解除により,給付物が返還される場合には,回復者が占有者にその権原に応じた使用収益権を与えている。そこでこの場合の善意占有者(無効原因・取消原因を知らない占有者,解除前占有者)については,その権原に応じた使用収益権を有したときと同様に扱ってよいであろう。売買の無効を知らない買主については,所有者としての自由な使用収益権を有していたのと同様に扱い,目的物の価値を増加させる変更の全てを「有益」としてよいことになろう(佐久間)

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民法判例まとめ35

2016-07-03 12:34:48 | 司法試験関連

295条2項の類推適用(295条2項と196条2項の関係)

①  Aは、本件建物の賃貸借契約が解除された後は右建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有していた。

②  Aが右のような状況のもとに本件建物につき支出した有益費の償還請求権については、295条2項の類推適用により、Yらは本件建物につき、右請求権に基づく留置権を主張することができないと解すべきである

最判昭和46年7月16日 百選80事件

・判例の見解に対しては、196条との体系的な整合性が失われるとの批判がある。

196条

「必要費」については、善意悪意を問わず償還請求を認める。

「有益費」については、悪意占有者に限って回復者の請求により、裁判所は期限を許与しうる、としているので、悪意占有者といえども、一応留置権の保護が受けられる。

295条2項類推適用

「必要費」であれ、「有益費」であれ、悪意・有過失の占有者は留置権の保護を受けられない。

・権原喪失型の場合、占有無権原となったことを知っている場合とそれを、疑いつつなしている場合、賃貸借の債務不履行解除による場合、期間満了によって賃借権が消滅した場合、抵当不動産の買主が自己の責によらずに占有権原を喪失した場合など様々な状況がありうる。

・過失占有についても、占有無権原の不知について過失ありという場合と、将来において占有権原を遡及的に失う可能性の予測に過失ありの場合(農地買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により遡及的に失効した場合)などその程度も様々である。

・特に、賃貸借の終了については「正当事由」の判断の微妙さも相まって権原喪失の有無の判断が困難な場合もありうるので、過失と無過失の差は紙一重になりうる。

・権原喪失型の判例ケースの主要な事例は、賃借人の債務不履行に起因する賃貸借契約解除の事例である。

   → 契約解除の場合、以後は返還債務が賃借人に発生しており、債務不履行として違法な占有があると評価できる。このような場合に、費用支出を理由として返還を拒むということ自体が、権利濫用的色彩が強い。295条2項類推適用により留置権を否定すべきといえよう。

・同様に、賃貸借の終了そのものが明白な場合には、返還債務の期限が到来している限り、同時履行の抗弁権が損しないときには、やはり債務不履行として違法な占有がAあるから295条2項類推により留置権は否定すべきであろう。

  → 但し、必要費の支出については、それが目的物の有益費のような価値増加ではなくて、価値維持を図るという点で本人の意思に反することは少ないであろうから、事務管理として違法性を阻却することが多いであろう)

自己の占有権原を第三者に対抗し得ない結果として無権原となったような場合(賃貸人の滞納処分による公売の結果、賃借権を失った者が当該家屋に修理工事など)には返還債務の不履行として違法な占有があるとはいいえないので、この場合は196条2項で処理すべきではなかろうか。

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2016年予備試験ロードマップ講義開催

2016-07-02 12:46:08 | 予備試験関連

去年大好評だった、予備試験論文式試験後の「ロードマップ講義」ですが、今年も開催します!

日付は7月16日です。予備試験過去問題商法(2014年)の解説をします。旧司法試験の刑法総論の問題を使って、旧司法試験の問題の有用性と本試験用にど運勉強すべきかなどもお話します。

夏の気合入れ、今後の勉強スケジュールの確認、論文対策の仕方など、盛りだくさんです!

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民法判例まとめ35

2016-07-01 11:32:58 | 司法試験関連

留置権の対抗力

①  残代金345万円については、その支払に代えて提供土地建物を上告人に譲渡する旨の代物弁済の予約がなされたものと解するのが相当であり、したがつて、その予約が完結されて提供土地建物の所有権がYに移転し、その対抗要件が具備されるまで、原則として、残代金債権は消滅しないで残存するものと解すべきところ、本件においては、提供土地建物の所有権はいまだYに譲渡されていない(その特定すらされていないことがうかがわれる。)のであるから、YはBに対して残代金債権を有するものといわなければならない。

②  そして、この残代金債権は本件土地建物の明渡請求権と同一の売買契約によつて生じた債権であるから、295条の規定により、YはBに対し、残代金の弁済を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡を拒絶することができたものといわなければならない。

③  ところで、留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても、債権者がその留置権を主張しうることは、留置権が物権であることに照らして明らかであるから、本件においても、Yは、Bから本件土地建物を譲り受けたXに対して、右留置権を行使することをうるのである。もつとも、Xは、本件土地建物の所有権を取得したにとどまり、前記残代金債務の支払義務を負つたわけではないが、このことはYの右留置権行使の障害となるものではない。

④  また、右残代金345万円の債権は、本件土地建物全部について生じた債権であるから、296条の規定により、Yは右残代金345万円の支払を受けるまで本件土地建物全部につき留置権を行使することができ、したがつて、Xの本訴請求は本件建物の明渡を請求するにとどまるものではあるが、YはXに対し、残代金345万円の支払があるまで、本件建物につき留置権を行使することができるのである。ところで、物の引渡を求める訴訟において、留置権の抗弁が理由のあるときは、引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずべきであるが、前述のように、XはYに対して残代金債務の弁済義務を負っているわけではないから、Bから残代金の支払を受けるのと引換えに本件建物の明渡を命ずべきものといわなければならない。

最判昭和47年11月16日 百選79事件

・本判決では、被担保債権と目的物との間に牽連性があること(295条1項本文)要件の具備が問題となった。

・本判決のロジック(Y→B→Xと売買された事例と同様の結果となっている)

→ Bの代物弁済が現実になされるまでは、Y→Bの売買代金債権は消滅しない(代物弁済の要物性)。したがって、YはBに所有権の移転した本件土地建物に関して生じたい債権を有する(牽連性あり)。

→ 留置権には不可分性がある(296条)。売買代金の一部でYはBに対して本件土地建物を留置できる。

→ 留置権は物権である。だから、一旦成立したYの留置権は第三者Xに対しても対抗できる。

→ 但し、Xの本件土地建物の引渡請求に対しては、請求棄却判決ではなく、Bの残代金支払との引換給付判決を下すのが妥当。(結果、Bの売買代金債務を第三者Xは弁済する義務を負わないが、Xが第三者弁済をした場合には、明渡しの執行ができる)

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