細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

独立と武士道

2012-03-31 15:18:52 | 人生論

社会心理学に興味を持ち,山岸俊男先生の本を4冊購入し,最初に「日本の「安心」はなぜ,消えたのか」を読みました。

「武士道」「品格」が日本をダメにする,とサブタイトルであったので,どんな内容なのだろうと興味を持って読みましたが,よく出来た本で,違和感とともに興味をひきつけられ,最終的には大部分納得しました。

我が国は「安心社会」から「信頼社会」へと移行すべき時期に入って久しい。「安心社会」での行動原理に縛られている日本人が大多数であり,信頼社会で力強く生きていく術を身につけていない。身につけるために,「武士道」「品格」は最悪の教育である。(なぜか,は本をお読みください)

私自身は,信頼社会で生きていくのに長けた,本書で書かれている「高信頼」の人間であると思います。「高信頼」の人は,他人を信頼できる。しかし,人が信頼に足るか,見極める能力にも長けている。その能力は,経験に裏付けられている。他者と協力関係を築こうとする中で,多少は失敗することもあるが,築くことでの多大なメリットを知っているので,失敗を気にしない。なので,経験が豊富になり,人を見る目が養われる。

「高信頼」な人間となるきっかけは,東大コンクリート研で与えられたと認識しています。そこの文化で生き残っていける人は,「独立」している。特定の価値観の中で権威に縛られる世界とは無縁。どんな個性でもよいが,自己主張の無いものは認められない。特に岡村先生が教授のころは,そういう「独立」を尊ぶ雰囲気に溢れていたと思います。

また,「高信頼」の「独立」たる人間となるための知恵として,「7つの習慣」が非常に役立ちました。他人がどう思うかが大事なのではなく,自身の原則をきちんと持ち,原則に従った生き方をすることが「独立」とほぼ同義であると思います。原理ではありません。原則です。

そして,山岸先生の本を読んでいて,ほとんど納得できましたが,唯一に近い,しかし非常に大切な違和感は,私は欧米の「信頼社会」に憧れない,という感覚でした。欧米の「信頼社会」のさらに上に行くために,武士道,品格,が必要なのではないか,と感じています。上でも,下でもどっちでもいいのですが,そのどっちでもいい,というのが武士道かなと。欧米と争う必要など無いし,争いなどから無縁にもっと高貴でありたい。

山岸先生曰く,武士道は「統治者」のための教養である。私もそう思います。信頼社会ですいすいと高信頼で生きていける人間たちが,そういう方々は,Win-Winなど当たり前,という方々ですが,武士道,品格も身につけておいて損はない。信頼社会も,安心社会も,どちらでもやっていける教養を,リーダーは身につけておくべきであろう。経済発展を続けてきた我が国が,もう一度焼け野原になっても,力強く生きていくために,そのような教養が必要であろう。我が国は焼け野原になるリスクも非常に高い。

我が国の表舞台で「ご活躍」されている方々の多くは,信頼社会で生き残っていくスキルを持っておられるように思えません。 旧来の安心社会での行動原理ばかり目に付きます。ある意味,論外。

信頼社会でバリバリと生きていける人たちが今の日本を引張り,そして単なる欧米の模倣でなく,さらにその先に行くために,武士道のたたずまいも奥に秘めた高信頼の日本人たちが多く出てくることが望ましいと思います。