大学の研究者ですから、本当にやりたいことを研究のテーマにすべきなのでしょうが、なかなかそうもいかないのが現実です。
本当にやりたいことではないのに、なぜやるのか。いろいろと理由はあると思いますが、例えば、
・その研究をやるとお金がもらえる。
・誰かに「やれ」と言われたからやる。(これが結構多いですかね)
・自分の使えるツールで研究を実施できる。(実験装置がある。数値シミュレーションのツールがある、など。)
・その分野で流行っている。
・意義があるように見える。
まあ、いろいろとあるのでしょうが、私も大学に赴任当時は、なるべく本当にやりたい研究をやろうと努力はしていたものの、今思えばとてもその状態からはほど遠い状態でした。そもそも、本当にやりたい研究というものが無かったようにすら思う。
特に、コンクリートの研究のように、これまでの蓄積も大きく、非常に多くの技術者、研究者が関与している分野においては、一研究者が大学で何か研究をしたって、目に見えて世の中が変わることなどめったにない、というのが現実です。そういう状況で、本当に心に誓ってやりたい研究をやっているか、と言われると難しいわけです。
この9月が終わると、横浜国大に来て10年が経過します。一つの大きな区切りと思っています。
大学教育が本職ですが、小学校の教育は非常に重要であり、何らかの貢献がしたいと以前から思っていました。本当に思うのであれば実践すればよい。ですから、最近は防災教育を研究テーマに掲げ、実践しています。
JR東日本で修業していたときは、「実構造物が良くならないと、研究しても意味がない」と教わってきました。実構造物が良くなるような実践的な研究がしたい、と赴任当時から思っていましたが、今はまさにその最前線に立っています。山口システムとの出会い、東北復興道路の品質確保とのご縁のおかげです。
自分の「使える」ツールにとらわれるのが大嫌いな性分でした。たまたま自分の実験室にこのような実験装置があるから、それを活用できるテーマを設定する、というような発想に根本から違和感を覚えます。ですから、世の中にないSWATが開発できたと思っています。
一見、脈絡のない研究テーマ群が並んでいるように思うかもしれませんが、私の中ではなんとなくすべてつながっています。取り組んでいる人間が同じなのだから、共通点があって当たり前です。その共通点については、もう少し考察して、別の記事にします。
10年後に何をやっているのか知りませんが、自分が本当にやりたいことをやっている研究者、技術者、教育者でありたいと思います。そうできるように、自己鍛錬したいと思います。
11日(日)に、平塚で家具固定の勉強会に参加してきました。非常に充実した内容で、これから平塚でも大きな動きが生じると思います。
私たちの研究室の動きに共感してくださった木谷正道さんが本拠地の平塚で家具固定の勉強会を企画してくださり、40名程度の参加で熱気にあふれた4時間となりました。
まず、龍城が丘という自治会のリーダー格のお宅を昼過ぎにご訪問して、先駆的な家具固定の事例を見学させていただきました。平塚の大工さんが実施した事例で、プロの家具固定はやはりすごいです。
その後、平塚駅近くの会議室にてシンポジウム。様々な人が集まっていました。平塚の自主防災組織のリーダーだったり、弁護士、保険業、一級建築士、横浜市の防災組織のリーダー、など数え上げると切りがありませんが、皆が真摯な思いを持ち、それぞれの持ち場で一所懸命に頑張っておられる方々でした。
私はいわゆる基調講演的な位置づけで30分、冒頭に話をしましたが、私の現在の力で発信できるメッセージをすべてお伝えしたつもりです。
家具固定は非常に面白い。命を守るために非常に大切ですが、なかなか普及しない。家屋の耐震補強に比べたら、普及させるための手段がいくらでもあり、もしかすると家屋の耐震補強よりも命を守るためには家具固定の方の重要性が増していると言っても過言ではない。
私の指導する渡辺君、伊藤さんも話題提供し、東京の大田区のマンションで家具固定を実践し、私の学生たちの先生役の篠原さんも話題提供しました。
その後、皆さんと非常にクリエイティブなディスカッションができました。平塚では今後の突破口になるかもしれない、あるお宅での家具固定を皆で知恵を絞りながら実践することになったそうです。また、家具固定を真剣に展開していく仲間のメーリングリストもできるとか。
私は自分のやるべきことに注力するのみです。私の中では、家具固定はあくまで「手段」。11日の講演のタイトルも、「『手段』としての家具固定と、その重要性」でした。
では、私の目的は何か。
講演で申し上げた私の目的は、「国民の防災に対する意識を高め、主体性を発揮させ、家具固定に留まらない防災における創意工夫、地域連携を生み出すこと。」です。