雅楽 〈秋風楽〉琵琶と箏(全体一返)~平安時代末期の楽譜『仁智要録』『三五要録』にもとづく再現~
山家集 下 雑
八月、月の頃、夜更けて北白川へまかりけり。由あるやうなる家のはべりけるに、ものの音しければ、立ちどまりて聞きけり。折あはれに秋風楽と申す楽なりけり。庭を見入れければ、浅茅の露に月の宿れる気色あはれなり。添ひたる荻の風身にしむらんとおぼえて、申し入れて通りける
葉月の、中秋の名月の頃、夜も更けてから北白川に行きました。由緒のありそうな家に出会いました。琴の音がしましたので、立ち止まって聴き入りました。折しも心に染み入るような秋風楽という曲でした。その邸の庭の中を見入ると、浅茅にかかる露に月光を宿すような風情がしみじみと感じられ、それに荻の上に吹く風も身に染み入るように思いましたので、歌を詠んでその家に申し入れて通りすぎました。
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秋風の ことに身にしむ 今宵かな 月さへすめる 庭のけしきに
奏される秋風楽の琴の音とともに、荻に吹く秋風がまことに身に染み入るような今宵でした。清らかな月さえも宿っているような、浅茅の生えたお庭のけしきを、通りかかりに眺めて。
チガヤ
西行(佐藤義清)という人間が、900年ほど昔の京都に実在し、北白川という場所をおとづれ、その時に美しい月夜を過ごして、秋風楽という琴の楽曲の奏されるの聴き、それに心動かされて和歌という言語表現で、その感動を記録しています。このような歴史的な事実は、確固とした芸術的な表象として、現在に生きる私たちにもその感動を共感できるように残されています。
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