(原題:Children of Men)子供がまったく生まれなくなった近未来、世界中のほとんどの国は無秩序状態になり、強力な全体主義でかろうじて国家体制を維持しているイギリスを舞台に、主人公の官僚(クライヴ・オーウェン)が反政府軍が巻き起こす内乱に巻き込まれてゆく様子を描く・・・・といった設定には、まったく興味が持てない。
原作のP・D・ジェイムズの「人類の子供たち」というSF小説は私は未読で、それにはもうちょっと気の利いた展開が記されているのかもしれないが、映画を観た限りではいかにも一昔前のディストピア指向の作品といった感じで、平板なストーリーも退屈の極みだ。アルフォンソ・キュアロンの演出がまた必要以上に深刻かつ重く、この程度のネタに何を勿体つけているのかと文句のひとつも言いたくなった。
ではまったく観る価値はないのかというと、そうではない。なぜなら終盤30分からの映像がそれまでのズンドコぶりを吹き飛ばすほど凄いからだ。
ゲットーに立て籠もった反政府組織に対し政府軍が一斉攻撃をかける市街戦の描写は、ヘタな戦争映画が消し飛んでしまうほどリアルで凄惨だ。しかもこれは、現在世界のどこかで勃発している戦火の実態を如実に描出している。
映画では“人類は子孫を残せない”という絶望的な“結末”はもう決定しているにもかかわらず、目先の利害やメンツにこだわって無用な流血が果てしなく続く惨状が描かれるが、実際の紛争もこれとさほど変わらない。やれ正義だ民族の誇りだといった大義名分はいつの間にか置き忘れられ、戦闘のための戦闘、殺戮のための殺戮が限りなく続き、問題の解決どころか憎悪の連鎖だけがいつまでも残る。この“世界の現実”をスクリーン上にヴィヴィッドに焼き付けたことだけでも、この作品の存在意義はある。
戦場での主人公の行動を長回しで逐一追いかけるカメラワークも驚くべきレベルの高さだ。