(原題:Eat Drink Man Woman 飲食男女)94年作品。「ブロークバック・マウンテン」の李安(アン・リー)監督が台湾時代に撮った、観る者の腹の虫を鳴りっぱなしにするスペクタクル級のグルメ映画。
主人公の朱(ロン・ション)は現在引退はしているが、元は一流ホテルのシェフだ。冒頭、三人の娘たちに夕食を作る場面からその名人芸に見とれてしまう。確かな包丁さばきと、念には念を入れる材料の仕込み。難しい火加減水加減も鼻歌まじりで、あっという間に食卓に美しい盛りつけの料理が並ぶ。たかが家庭料理にここまで凝るかぁ! と半ばあきれていると、映画が進んでも、あちこちにこういう美味しそうな場面が満載。大披露宴の料理から小学生のお弁当まで、中華料理の真髄を見せてくれる。特に、突然現役シェフからの応援を依頼された主人公が、大勢の料理人たちが右往左往するホテルの大厨房に乗り込んでいくシーンのドキドキする躍動感(スピーディなカメラワークの見事さ!)には圧倒されてしまった。
さて、当然映画の本題は料理の見せつけ方ばかりにあるのではない。男手ひとつで三人の娘を育てた初老の主人公と、娘たちの微妙な確執を描くホーム・コメディある。高校教師の長女(ヤン・クイメイ)は学生時代の失恋がネックとなって、いい歳になった今でも恋愛に踏み込めない。次女(ウー・チェンリェン)は有能なキャリア・ウーマンだが、海外転勤の話が出て迷っている。女子大生の三女(ワン・ユーウェン)は気ままな生活を送っている。しかし、三人の心の中は父親のことで占められ、反感と愛情が入りまじった特別な意識で父をとらえており、人前では絶対に男友だちの話をしないのはそのためであった。
彼女たちが、いかに父親の影響下を離れ自分自身の人生を歩んでいくか、そして子供たちに去られる主人公の悲哀(歳を取って味覚が落ちてもいる)を決して重くならず、カラリと楽天的に描く作者の姿勢は好ましい。“家族の結び付きを料理という「儀式」の面から捉えた”という作者の言葉(パンフにある)どおり、人を幸せにするコミュニケーションの手段としての料理が、傑作「バベットの晩餐会」(87年、デンマーク)の崇高さよりも家庭料理の次元でわかりやすく親しみをこめて描かれる。
そして李監督の語り口のうまさ。意外なドンデン返しの連続で爆笑させたあと、静かな余韻を残すラストが忘れられない。女優陣の健闘もかなりのものだが、「ウェディング・バンケット」の主役だったウィンストン・チャオが脇に回って飄々とした味を出しているのも嬉しい。
主人公の朱(ロン・ション)は現在引退はしているが、元は一流ホテルのシェフだ。冒頭、三人の娘たちに夕食を作る場面からその名人芸に見とれてしまう。確かな包丁さばきと、念には念を入れる材料の仕込み。難しい火加減水加減も鼻歌まじりで、あっという間に食卓に美しい盛りつけの料理が並ぶ。たかが家庭料理にここまで凝るかぁ! と半ばあきれていると、映画が進んでも、あちこちにこういう美味しそうな場面が満載。大披露宴の料理から小学生のお弁当まで、中華料理の真髄を見せてくれる。特に、突然現役シェフからの応援を依頼された主人公が、大勢の料理人たちが右往左往するホテルの大厨房に乗り込んでいくシーンのドキドキする躍動感(スピーディなカメラワークの見事さ!)には圧倒されてしまった。
さて、当然映画の本題は料理の見せつけ方ばかりにあるのではない。男手ひとつで三人の娘を育てた初老の主人公と、娘たちの微妙な確執を描くホーム・コメディある。高校教師の長女(ヤン・クイメイ)は学生時代の失恋がネックとなって、いい歳になった今でも恋愛に踏み込めない。次女(ウー・チェンリェン)は有能なキャリア・ウーマンだが、海外転勤の話が出て迷っている。女子大生の三女(ワン・ユーウェン)は気ままな生活を送っている。しかし、三人の心の中は父親のことで占められ、反感と愛情が入りまじった特別な意識で父をとらえており、人前では絶対に男友だちの話をしないのはそのためであった。
彼女たちが、いかに父親の影響下を離れ自分自身の人生を歩んでいくか、そして子供たちに去られる主人公の悲哀(歳を取って味覚が落ちてもいる)を決して重くならず、カラリと楽天的に描く作者の姿勢は好ましい。“家族の結び付きを料理という「儀式」の面から捉えた”という作者の言葉(パンフにある)どおり、人を幸せにするコミュニケーションの手段としての料理が、傑作「バベットの晩餐会」(87年、デンマーク)の崇高さよりも家庭料理の次元でわかりやすく親しみをこめて描かれる。
そして李監督の語り口のうまさ。意外なドンデン返しの連続で爆笑させたあと、静かな余韻を残すラストが忘れられない。女優陣の健闘もかなりのものだが、「ウェディング・バンケット」の主役だったウィンストン・チャオが脇に回って飄々とした味を出しているのも嬉しい。


