昭和40年代に起こった誘拐事件と、その関係者が再び巻き込まれる昭和60年代に起こる誘拐劇。二つの事件の因縁めいた関係を描くサスペンス篇。第十回吉川英治文学新人賞の受賞作である。
この作家(二人のライター共同のペンネームである)の作品は初めて読むが、テンポがよくスラスラと読め、最後までストレスを感じさせない筆致だ。途中で結末が分かってしまうのだが、それでもストレスなしで目を通すことが出来る。ちょっと長い時間、列車に乗っている間に手にする本としては最適であろう。
だが、内容はそれほど濃くはない。人物描写も浅い。“犯人”の手口は、完璧に予定通り事が運ぶという、万に一つの偶然性に寄りかかっている(正確には一つだけ予想外のことが出てくるのだが、あまりに大きく厳然とした事態なので、ほとんど齟齬は生じない)。要するに突っ込みどころが満載なのだ。途中でちょっとした予期せぬトラブルが次々と起こり、“犯人”がそれを取り繕うために悪戦苦闘するようなシチュエーションを入れた方が数段盛り上がったろう。
それよりも面白かったのが、犯行にパソコンを使うことで、OA機器にまったく縁のない捜査陣が右往左往するところ。当時はパソコンを自在に操るのはプロかオタク青年ぐらいで、一般にはパソコンアレルギーを持つ者が山のようにいたことを思い出す。まあ、当時のその状況を前提にしないと、トリックの説明にかなりのページを割くような本書のスタイル(出版されたのは88年)は成り立たなかっただろう。今読むと少し微笑ましい。そういえば私がパソコン通信を始めたのがちょうどこの頃であり、懐かしく思えた。
この作家(二人のライター共同のペンネームである)の作品は初めて読むが、テンポがよくスラスラと読め、最後までストレスを感じさせない筆致だ。途中で結末が分かってしまうのだが、それでもストレスなしで目を通すことが出来る。ちょっと長い時間、列車に乗っている間に手にする本としては最適であろう。
だが、内容はそれほど濃くはない。人物描写も浅い。“犯人”の手口は、完璧に予定通り事が運ぶという、万に一つの偶然性に寄りかかっている(正確には一つだけ予想外のことが出てくるのだが、あまりに大きく厳然とした事態なので、ほとんど齟齬は生じない)。要するに突っ込みどころが満載なのだ。途中でちょっとした予期せぬトラブルが次々と起こり、“犯人”がそれを取り繕うために悪戦苦闘するようなシチュエーションを入れた方が数段盛り上がったろう。
それよりも面白かったのが、犯行にパソコンを使うことで、OA機器にまったく縁のない捜査陣が右往左往するところ。当時はパソコンを自在に操るのはプロかオタク青年ぐらいで、一般にはパソコンアレルギーを持つ者が山のようにいたことを思い出す。まあ、当時のその状況を前提にしないと、トリックの説明にかなりのページを割くような本書のスタイル(出版されたのは88年)は成り立たなかっただろう。今読むと少し微笑ましい。そういえば私がパソコン通信を始めたのがちょうどこの頃であり、懐かしく思えた。