元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「我が人生最悪の時」

2006-12-11 06:41:45 | 映画の感想(わ行)
 94年作品。横浜・黄金町の映画館の2階に事務所を構える私立探偵・濱マイクの活躍を描くアクション篇。モノクロ、シネマスコープというけっこう野心的な外見を持つ映画である。

 結論から先に言うと、意外に楽しめた。監督は林海象で、デビュー作「夢みるように眠りたい」(86年)以外はすべて駄作の、信用できない作家である。しかし、今回に限っては健闘している。昭和初期のレトロな様式にこだわる林監督は、舞台が現代の都会でありながら、どこかノスタルジックであたたかく、しかし実際には絶対に存在しない独特の空間を作りだすことに成功している。

 マイクは、麻雀屋でヤクザにからまれているところを助けた台湾人の青年から、彼の行方不明になった兄を捜すように依頼される。しかしその兄は新興暴力団のヒットマンになっていた。実は弟は台湾の組織から兄を殺すように派遣されていたのだ。マイクの身にも危険が迫る。

 永瀬正敏扮するマイクは、浮世絵柄のジャケットにハンチング、年代物のド派手なアメ車を乗り回し、警察にもマークされる問題児。これ見よがしのキザったらしい造形がなぜかこの映画の雰囲気に合っている。しなやかな身のこなしも悪くない。相棒のタクシー運転手(南原清隆)、親父代わりのベテラン探偵(宍戸錠)、凶暴なヤクザのボス(佐野史郎)など、周りのキャラクターも“立って”いる。

 演出のテンポはかなりいい。殺しのシーンの迫力や活劇場面のスピード感など、邦画の中では上出来の部類だろう。

 しかし、欠点も多い。まず、中盤に登場する台湾ヤクザの存在感が主人公を食ってしまうことだ。特に候徳健扮する殺し屋のスゴ味はなかなかのもの。修健演ずるチンピラも捨て難く、こいつらを相手にするにはこの主人公じゃ力不足だ。それから、アンハッピーに終わる物語に関して、結局主人公は何をしたのだという疑問も残る。周囲をバタバタ駆け回って、話をややこしくしただけと思うのは私だけか。モデルになったらしいミッキー・スピレーン作のマイク・ハマーみたいに、痛快な働きぶりを見せてほしい。昔はけっこうワルだったという主人公のバックボーンも不鮮明。くどくど説明する必要はないが、それを暗示させるような描写をもっと入れるべきだ。

 まあ、いろいろ書いたが、日本映画の活劇もの中ではマシな部類で、ワイド・スクリーンの魅力も相まって観て損はしないだろう。めいなCo.による音楽や木村威夫の舞台美術も要チェックである。
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