(原題:Saraband)まさかイングマール・ベルイマンが新作を撮っていたとは考えもしなかった。74年製作の「ある結婚の風景」の“後日談”で、主演も前作同様リヴ・ウルマンとエルランド・ヨセフソン。今頃になって続編を撮る気になった理由は分からないが、出来た作品はさすがに横綱相撲の貫禄を見せている。
泥沼のような夫婦の“死闘”の後、30年ぶりに再会した二人だが、その年月が過去の修羅場をまったく風化させていないところが凄い。それどころか、二人の確執は夫の息子の心理状態にも暗い影を投げかけ、さらなる惨状を露呈させる。
人間とはこれほどまでにどうしようもない生き物なのか・・・・という見方を“神からの視点”で突き放して綴るのかと思いきや、夫の孫娘の純真さに“救い”を見いだすあたりは、それでも世の中を捨てきれない作者の切迫した“祈り”を感じさせ、観る者を粛然とさせる。
ほとんど舞台劇のような形式だが、セリフのひとつひとつは、まるで喉元に突きつけられた刃のごとき鋭さだ。クローズアップと引きのショットとのタイミングも絶妙で、時折挿入されるイメージ場面も鮮烈。これは作劇の教科書とも言える洗練された仕事ぶりだ。渾身の演出とキャストの渾身の演技。スクリーン上にまったくスキがなく、最後までピーンと緊張の糸が張りつめている。
なお、本作品はビデオ・プロジェクターでの上映だった。まあ、昨今のプロジェクターは性能が良くなったので、それ自体を頭から否定はしない。しかし、劇場側は35ミリ・スタンダードサイズの上映環境を整えておらず、見せられた画像は横長の不自然極まりないもの。おまけにスクリーンの3分の2程度しか表示されない。はっきり言って、これほどヒドい上映にお目にかかるのは久しぶりだ。ちゃんとした上映が出来ないのなら、最初から公開を引き受けるべきではない。作品自体が上質なだけに、後味の悪い結果となった。