元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「時をかける少女」

2006-12-10 07:48:24 | 映画の感想(た行)

 本作はもちろん筒井康隆の同名原作を元にしているが、小説そのままの映画化ではなくオリジナルストーリーによるアニメーションである。

 ただしあの大林信彦監督作品を“下敷き”にしていることは確かで、大林版が製作されてから20数年経っているからか、前回の主人公である芳山和子は今回のヒロインの叔母という設定で、しかも彼女がタイムリープの能力を持っていたのは“20年前”ということになっている。舞台は東京の下町ながら、大林監督の“尾道シリーズ”同様、坂道が大きなモチーフとして使用されているあたりも年季の入った映画ファンとしては嬉しい。

 今回タイムリープの主役になる女子高生・紺野真琴は、突然身につけた能力を、テストの点数稼ぎやちょっとした言い間違いの訂正、果ては好きな料理を何度も食べるためやカラオケを延々と続けるといった、実にくだらないことに使っているのが天晴れだ(爆)。タイムパラドックスなど眼中にないほどの脳天気な振る舞いながら、新人・仲里依紗の溌剌とした“声の好演”もあり、まったく嫌味がない。

 前半はそんな彼女の御転婆ぶりに大笑いさせられるが、中盤以降の男友達二人との関係をじっくり描く段になると、甘酸っぱい青春ドラマとしての側面が強調され始め、観る者の胸を締め付ける。女子一人と男子二人の、愛情に限りなく近い友情が何のてらいも違和感もなく展開されるのは、主人公達の若さゆえか。

 懐かしい学校のディテール描写や登場人物の心情を表すかのような青い空の映像が抜群の効果。バッハのゴールドベルグ変奏曲をはじめとする音楽も素晴らしい。

 原画の枚数はテレビアニメに毛が生えた程度で、作画のデッサンも万全とは言い難いが、内容では今年の日本映画全体の中で上質の部類に入る。監督の細田守は「ハウルの動く城」の監督に指名されていたらしく、もしも彼が演出を担当していれば・・・・と思わずにはいられない。
コメント
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