元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「武士の一分(いちぶん)」

2006-12-19 06:46:36 | 映画の感想(は行)

 主演が木村拓哉ということで観る前は若干の危惧を覚えたが(激爆)、なかなか抑制の効いた秀作に仕上がっている。

 一番のポイントは「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」といった過去二本の藤沢周平原作&山田洋次監督作品とは違い、話の中心が主人公と妻との関係性にある点だ。藩から反乱分子を始末することを命じられ、強制的に決闘に出向いた前二作とは異なる。本作では妻に手を出した不逞の輩を懲罰するため“個人的に”果たし状を叩き付けるのだ。

 ただしその立ち回りのシーンは作劇において取り立てて大きな部分を占めていない。単なる“余興”と言っても良いだろう。映画のかなりの部分を占めるのは、主人公と妻、そして初老の使用人との“家族”の有り様だ。夫婦が会話するシーンや食卓を囲む場面もかなり多い。これがラスト近くの決闘場面が無く、全編が目が見えなくなった主人公を妻や周囲の者たちがフォローしていく展開だけであったとしても、十分感慨深い作品に仕上がったはずである。

 市井の人々の凛とした美しさを描こうという点は前二作と共通しているが、本作は(お上の生臭い事情が云々といったネタが少ない分)徹底している。それだけ前二作より幅広い層にアピールできよう。

 山田監督の静謐な演出が光るが、キャストの頑張りも特筆ものだ。キムタクは敢闘賞。序盤こそ若干の“キムタク臭さ(謎 ^^;)”が気になったが、ドラマが進むにつれ立ち振る舞いがサマになってくる。殺陣も万全で、なぜもっと早く時代劇映画に出てくれなかったのかと不平のひとつも言いたくなった(笑)。

 使用人役の笹野高史、コメディ・リリーフに徹した桃井かおり、悪役が実によく似合う板東三津五郎も良い仕事ぶりだが、最大の収穫は妻に扮した檀れいだ。楚々とした風情が役柄に完全にマッチ。気品もある。山田監督は「たそがれ清兵衛」で前衛舞踏家の田中泯を出演させて大きな効果をあげていたが、映画初出演となる今回の彼女の起用といい、人材を見つけてくるのが上手い。ノーブルな魅力を持つ女優が少ない中、檀れいには今後も映画に出て欲しい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする